世界はそれを愛と呼ぶ
相馬の背中をぽんぽんと叩きながら、身を任せていると。
「─相馬様、体調にお変わりは」
と、綺羽さんが心配そうな顔をしている。
「んー?今は平気だ」
「本当ですか?具合悪くはないですよね」
「おー……」
相馬の生返事に、不安げな綺羽さん。
「……何したの、相馬」
沙耶が上から問えば、
「や……ちょっと、能力を過剰使用?したというか。面倒臭くて、まとめて一帯の人間を保護地へ送ったんだ」
と、相馬は困り顔。
「あの技はかなりの精神を削ります。常人であれば、精神崩壊を起こしていてもおかしくはありません」
「あまり記憶に残ってないが、ちゃんと帰ってきてるよ。大丈夫。俺の動向を頑張って監視してくれた奴に話を聞いたけど、真っ直ぐ、ここに、沙耶のとこへ帰ってきてたみたいだから」
「今現在、お熱などは」
「ないない」
綺羽さんの心配に対し、相馬のなんと軽いこと。
「相馬」
沙耶が名前を呼ぶ。相馬は察し、身を固くする。
「…………綺羽、俺は大丈夫だから」
まるで、喉を鳴らす猫のようだ。と、陽向さんが小声で呟き、莉華さんと笑いあっている。
契約を結んだばかりだからか、相馬は完全に気が抜けていて、甘えたになっている気がする。
それはそれでいいんだが、礼儀はきちんとしなければ。
「ありがとな」
相馬がそう言えば、綺羽さんはやっと、ほっと安心した顔をした。
「疲れていても、礼儀は大事」
「ん。すまん」
「良いよ。それより、話し合いをするから」
沙耶が離してと言うと、相馬は自分の膝の間を開けた。
そして、そこに座るように促される。
沙耶はいつもの事なので、大人しく座る。
すると、背後から抱き締められる。
(んー……気にしたこと無かったけど、今はなんだか気恥しいな)
だからといって、離れようとは思わないが。
「……じゃ、ひとまず、相馬様に保護地へ送られた者たちの話を」
「ああ」
「今は天宮様の御協力もあり、回復しているものがほとんどです。精神面などを配慮しつつ、これから聴取に移って行く予定ですが……あの日、青年に頼まれて連れ出した少女が錯乱し、泣き続けています」
「心優(ミユ)、だったか」
「ええ。見た目は私達とあまり変わりませんが、本人曰く、自分は12歳であると。そして、実験体のひとりであり、喉が渇いて仕方がないと」
「……御園の血か?」
「おそらく」
「じゃあ、御園家の非常食を……」
「そう思い、薬剤を差し出したのです。普通の人間ですが、衝動だけがあるみたいで……血液や血剤は拒絶反応があるでしょうし、人体なんてもってのほか。既に泣き喚いたことにより飢餓寸前ですが、彼女は青年以外から食事を行ったことがないらしく」
「……それは」
「打つ手がありません」
「唯一を決めてしまって、それに本能が抗えなくなっている……ってところか」
「そうだと推測はできますが……弱った現在、時々、落ち着いた時間帯ができてきまして。そこで、いくつか話を聞けました」
「続けろ」
「彼女曰く、自分は実験施設で生まれ、母親が人質になっていると」
沙耶は全然把握出来ていない話だ。
黙って聞いていると、「……金髪、青い瞳」と、相馬が呟いた。