世界はそれを愛と呼ぶ
第4節 失いたくなかった
☪︎
「─相志」
……彼女は立っていた。そこで微笑んでいた。
その姿は、かつての彼女によく似ていた。
「お久しぶりです、響様」
御国響─御国家の当主である彼女は、傍らに夫を連れ、昔のように怯えた不安そうな顔ではなく、堂々とした姿で立っていた。
彼女は深く頭を下げた相志のそばに寄ってくると、膝を折り、相志の頬に触れる。
「馬鹿ね。もっと早く、話してくれれば」
優しい声が、耳朶を撫でる。
「話せる状況じゃなかったかもしれんが……ひとりにして、悪かったな」
彼女の夫、彼─御国煌(コウ)も、寄り添うように肩に触れる。
ふたりは、相志の家庭環境もよく知っている。
「…………どうして」
「ひとりで全てを抱え込んで、不幸になろうとする三人目の父親に、現実を教え込んで、丸め込んで、引き込んでくれって。相馬に言われたの」
と、言うわけで。……相志が理解する時間も与えず、響と煌は笑って、相志の両手を各々塞ぎ、引いた。
繋がれた手の温もりは、何年ぶりだろうか。
じんわりと伝わってくる人の温かさは、相志の曇っていた目の前を晴らしていくような、そんな。
「……何をするつもり?」
父親、なんて、呼んでもらう資格ない。
自分のせいで、彼女は死んだ。
生涯の主と定めた、彼は壊れ、不幸になった。
朝霧相志は幸せになれない。
そう在らなければならない、と、ずっと、ずっと、ずっと。
「え、お掃除」
「……それは」
「勿論、死ぬことは禁じるわよ」
「……」
……分かっていたけど、やっぱり普通の掃除じゃない。
世の中をよくするための、お掃除だ。
「私も出ようかと思ったのだけど、皆に大反対されたの。だから、煌とお留守番してる」
「それがいいよ。……柚希さんも、望まない」
響の母親。己の全てを犠牲に、娘を守った人。
美しく、儚く、若く、最愛の人と散っていった。
「─相志」
……彼女は立っていた。そこで微笑んでいた。
その姿は、かつての彼女によく似ていた。
「お久しぶりです、響様」
御国響─御国家の当主である彼女は、傍らに夫を連れ、昔のように怯えた不安そうな顔ではなく、堂々とした姿で立っていた。
彼女は深く頭を下げた相志のそばに寄ってくると、膝を折り、相志の頬に触れる。
「馬鹿ね。もっと早く、話してくれれば」
優しい声が、耳朶を撫でる。
「話せる状況じゃなかったかもしれんが……ひとりにして、悪かったな」
彼女の夫、彼─御国煌(コウ)も、寄り添うように肩に触れる。
ふたりは、相志の家庭環境もよく知っている。
「…………どうして」
「ひとりで全てを抱え込んで、不幸になろうとする三人目の父親に、現実を教え込んで、丸め込んで、引き込んでくれって。相馬に言われたの」
と、言うわけで。……相志が理解する時間も与えず、響と煌は笑って、相志の両手を各々塞ぎ、引いた。
繋がれた手の温もりは、何年ぶりだろうか。
じんわりと伝わってくる人の温かさは、相志の曇っていた目の前を晴らしていくような、そんな。
「……何をするつもり?」
父親、なんて、呼んでもらう資格ない。
自分のせいで、彼女は死んだ。
生涯の主と定めた、彼は壊れ、不幸になった。
朝霧相志は幸せになれない。
そう在らなければならない、と、ずっと、ずっと、ずっと。
「え、お掃除」
「……それは」
「勿論、死ぬことは禁じるわよ」
「……」
……分かっていたけど、やっぱり普通の掃除じゃない。
世の中をよくするための、お掃除だ。
「私も出ようかと思ったのだけど、皆に大反対されたの。だから、煌とお留守番してる」
「それがいいよ。……柚希さんも、望まない」
響の母親。己の全てを犠牲に、娘を守った人。
美しく、儚く、若く、最愛の人と散っていった。

