世界はそれを愛と呼ぶ

第5節 愛の残滓

☪ ‎



「─ということで、沙耶を貰います」

お家事情も含めて、全部話すと、健斗さんはこめかみを押さえながら。

「なんっで、こんなことに─……」

と、深いため息をついた。

それはそうだろう。あまりにも一気に押し寄せるそれは、健斗さんの愛妻であるユイラさんを不安にさせるには充分で、でも、大切な娘を守る為、妹を守る為、健斗さんは勿論、ユイラさんも、大樹さん、心春さん、勇真さん、麻衣子さんはリビングにて、考え込んでいた。

「─ねぇ、相馬」

これから、深い仲になる。
だから、身分の壁はとっぱらって貰った。
御園家に産まれただけ、当主になっただけ、なんて、他が聞けばひっくり返るだろうが、当主業を行っていない時くらいは一人の人間でいたいので、相馬への接し方は普通の高校生に接するように、と、お願いしたら、彼らは即座に呑んでくれて、最初は相馬の立場に驚いていた麻衣子さんですら、普通に名前で呼んでくれる。

この臨機応変、というか、対応の速さは本当に助かるし、接していて、不快な気分にならない。

「なんでしょう」

「私だけかもしれないけど、正直、現状を把握しきれていないの。……ねぇ、沙耶は誰に似てるの。私からしたら、健斗さんとユイラさんにそっくりよ。ふたりの特徴をよく引き継いだ子。でも、フィーさんは違った」

彼女の言う通りだ。確かに、沙耶は二人の娘。
2人にそっくりで、それは目元、口元、鼻筋、全体的な顔立ち、スタイル、雰囲気、中身、どれを鑑みても、どちらかに寄っている彼女は、近寄り難い雰囲気を持つ。

「……俺も、聞いただけの話です。でも、沙耶が行った向こうで、例の人物を知る人がティーカップを落としてしまうくらい、沙耶は生き写しなんだそうで」

「そのレベル?でも、それはユイラさんの血筋よね?」

「そう、なんですけど。ちゃんと調べなければ、信憑性はありません。ですが、フィーの話だと、健斗さんの御両親は特殊な結婚生活だった、と」

話題を振られた健斗さんは、気付いたのだろう。

「……柏原家」

と、呟かれる。


< 52 / 120 >

この作品をシェア

pagetop