取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「父が済まない。すぐに帰らせるから」
「お前な、俺はお前のために」

「やめろって言ってるだろ! 帰ってくれ!」
 聖七が叫ぶと、勝弘は舌打ちして踵を返した。
 聖七は大きくため息をついてからくるりと振り返り、来場者に頭を下げる。

「みなさん、お騒がせしてすみません!」
 来場者は安堵したように猫たちに向き直り、会場には再び楽し気なさざめきが生まれる。
「ありがとうございます」
 優維が頭を下げると、聖七は黙って首をふった。自分のせいだ、と打ちひしがれた様子に、胸が痛む。

「あんたすごいなあ、あのヤクザを一言で追い返すなんて!」
 勇雄が人を縫って現れ、聖七に言う。彼らが親子だとは気付いていないようだ。

「今時なかなかいない勇気のある青年だ!」
 勇雄の大声に、猫を見ていた人たちが再び優維たちに注目する。
「あ、いえ」
 聖七は否定しようとするものの、歯切れが悪い。息子だなんて言いづらいだろう、と優維は同情した。

「場所を変えませんか」
 千景が言うと、勇雄ははっとした。
「ああ、邪魔したかな。俺はもう帰るから」
 そう言って彼は三人から離れる。

「社務所へどうぞ」
 笑顔を崩さず千景が言い、聖七は口元だけに笑みを浮かべて了承した。
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