取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 優維はおろおろと周りを見て、周囲の人がこちらを見ていることに気が付いた。
「ここではなんですから、おふたりで話してきてください」
 千景の後ろにまわり、ぐいっと背を押す。

「優維さん」
「つもる話があるみたいですから」
「……わかった」
 あきらめたように千景が答え、勝ち誇った笑みを浮かべる佳世を連れてその場を離れる。

 優維はなんとも言えない気持ちでうしろ姿を見送った。
 どうして彼女が来たのだろう。今は許してくれているとは、どういうことだろう。

 彼女は千景の結婚を本心じゃないと言った。
 もしかして、と疑問がひとつに収束していく。

 彼は彼女と付き合っていたのに父親の反対で結ばれなかったのだろうか。だから千景はあっさりと優維との結婚を決めたのだろうか。彼女を忘れるために、やけになって。彼が優維に優しかったのは、うしろめたさによるものだろうか。

 実際、優維の存在は都合が良かっただろう。
 借金で困っていて、その弱みに付け込めばいい。小さいながらも神社の娘であり、彼が望んだとおりに神社が手に入る。
 ……駄目だ、悪い方向に考え過ぎだ。冷静にならないと。
 優維は思考を打ち切った。

 なにもなかったかのように発表会の片付けを手伝い、佳世のことは頭の外に追いやった。
 千景はすぐに話を終えて戻ってきた。
 泣いている様子の佳世が走り去る姿が見えて、胸がずきんと痛んだ。
< 73 / 148 >

この作品をシェア

pagetop