イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「はぁ……」
焼酎はビールより度数が高いから、あまり得意じゃない。さすがにアルバイト中に酔ってしまうのはマズいけれど、もう飲んでしまっては仕方ない。これ以上は飲まないようにしよう。早く湊さんに戻ってきてもらわないと……と思いつつトイレを出ると、何やら話し声が聞こえてきた。
この声は、湊さんだろうか。でも、違うところで電話をしていた気がする。すると、女性の声も聞こえてきた。
「さすがに瑠奈ちゃんの事だから浮気なんて事はしないと思うの」
それは、早瀬さんの声だ。私の名前が出てきてついドキッとしてしまったけれど……浮気、という言葉に頭をかしげてしまった。
「でも、とっても仲が良さそうだったし、距離も近かったから……それに、さっき言ったでしょ? キスしてたって。写真はこれしかないんだけど、私はっきり見たの」
「……」
私が、浮気……誰と? いや、さすがにそれはない。アルバイトのお給料がもらえない可能性がある事なんて絶対にする気なんてないもん。それに、私と浮気してくれそうな相手なんて周りにいないし。
でも、困ったな。これでアルバイト終了になっちゃったら、どうしよう。このアルバイト期間は3ヶ月。もう2ヶ月が過ぎてその分のお給料は貰ったけれど、あと1ヶ月残っているからその分は貰ってない。
早く借金も払いたいのにぃ……慰謝料まで請求されちゃったらどうしよう……
写真があるみたいだけど、一体誰とのツーショットなんだろう……それが分かればどうにかなりそうな可能性もあるけれど、ここで立ち聞きしてしまっている事実は知られたくないし……
それに……湊さんに幻滅してほしくない。そう、思ってしまっている。
だから、怖くなった。彼が今、どんな顔をしていて、どう思っているのか。それを考えると、怖くなった。
だから、静かに、逃げるようにその場を離れてリビングに戻った。心を落ち着かせ、平常心を保つけれど、周りは警察官達だから観察眼が鋭いかもしれない。悟られないように気をつけなきゃ……
でも、さっきの言葉が頭から離れない。
「はいどーぞ、瑠奈ちゃん」
お箸を取る私に、海さんが話しかける。一瞬ドキッとしてしまったけれど、すぐに仕舞い視線を向けた。けれど、目の前にはコップがあり海さんが渡してきていた事に気が付いた。
……嫌な予感が、するのだが。さっきの事を考えると、この透明な飲み物は、恐らく……
「……これ、なんです?」
「お酒♡」
いや、もう、さすがにもう焼酎は勘弁してほしい。これ以上お酒が入ればきっと酔いつぶれるに決まってる。絶対駄目。余計なことまで喋っちゃいそうで恐ろしいったらありゃしない。
けれど、いきなり後ろから手が伸びてきた。そして、そのコップを掴み消えていく。
「おい、もう飲ませるな」
その声は……湊さん。私の後ろにいるらしいけれど、一瞬肩が上がりそうになる。私の隣にある自分の席に座るけれど、あまり視線を向けたくなくなってしまった。今の心情を読まれたくなかったから。
「下戸は黙ってて。お酒のお付き合いも大事な事よ? ほらほら、瑠奈ちゃんどーぞ!」
「飲まなくていいぞ、瑠奈」
結局、湊さんが野木さんの方に回してくれた。よかった……