イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「……今日も飲みに誘われたんですか?」
「いや?」
「えっ?」
「ただ瑠奈と寿司を食いたくなったから」
それに会えてなかったしな、と続けた。
けれど、これって契約に入ってたっけ。彼女役として必要な事なのだろうか。あ、でも、この前彼女と寿司行った、とは言えるか。
そう自分で納得することにした。
とはいえ、自分に言い聞かせても、心の片隅に期待している部分がある。そんな事を思ってはいけないのに。自分では分かっているのに、消せない。
意識してしまっている、と自分で認めているけれど、なら、自分はどうしたいのだろうか。無事にこのアルバイトが終わってほしい? うん、それは当然の事だ。じゃあ、他には?
なら、1週間ぶりに会えて嬉しかった、と思うのは……どうしてだろうか。仕事が出来るから? そう、思いたい。
こんなに意識してしまっているのは、お泊まりしてしまった時のせい。そして、湊さんが悪い。ただそれだけだ。そう、それだけ。
けれど、そんなもやもやは運ばれてきたお寿司で一瞬にしてかき消された。
「……光ってる……!」
「ぷっ」
「……」
目の前に置かれた、特上の握り寿司。高級感が溢れていて、ネタが光っていた。ただそのままぽろっと本音が口に出てしまっただけなのに、そこまで笑わないでほしい。馬鹿にしてる? でも……照れてしまうところもある。
見なかった事にして、お寿司をお箸で慎重に持ち、ちょん、としょうゆをつけた。そして、一口食べて驚いた。お、美味しい……!
ネタはもちろん、シャリも美味しい。何と素晴らしい握り寿司なんだ。これはもうこれから先食べる機会はないだろうから、今日は味わって食べなきゃ!
「美味いか?」
「とっても美味しいです! ありがとうございます!」
「そうか。……じゃあ、また連れてきてやる」
「っ……」
また、連れてきてやる。
それは、一体いつの話だろう。もうそろそろで、アルバイトが終わるというのに。
明日? 明後日? いや、こんなに忙しい人なのだから、そんなに時間を割く事は出来ないと思う。
じゃあ、いつ?
どうして、私は期待しているのだろう。
ただの、アルバイトの分際で。
そう、アルバイトの分際で。