イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「彼はエリート、そして今はあの若さで警視という階級にいる。いわば逸材だ。将来的には警視正、警視長、警視監、更には警視総監にまで就けるだろう。だから、結婚する相手は警察側の人物の方が将来的には好ましい。重要な人脈を作らないといけないからね」
「……」
「君は一般人だ。君は君で見合った相手を選んだ方が、君の将来的にも良いと思うよ」
「あの、貴方は湊さんのお父上ですか?」
無意識に、その言葉が勝手に口から出てしまった。
笑顔でそんな事を言ってくるけれど、湊さんの将来は自分が決めるものだとでも言っているような態度に見える。
それに、お前は貧乏なんだから見合ったやつにしろ、と言われているような気もした。
偉くてお金持ちな相手に向かって失礼な事を言ってしまった事は分かっているけれど、でも出てしまったものは戻せない。
「……いや、違うが」
「警察では、上司に用意された結婚相手と絶対に結婚しないといけないって決まりがあるんですか? すみません、私警察じゃないので知らなくて」
「……何が言いたい」
「ないんですか?」
「……私は、矢野君の上司だ。部下を成長させ導いてやるのも仕事の内。部外者には、こちらの事をよく知らないだろう。だからとやかく……」
「ないんですね?」
「……」
部外者、ね。
私が初めて湊さんと会った時、お見合いを断りに来たと言っていた。それに、警視長さんが私の質問にそう答えて、聞き直すと黙った。という事は、これは義務ではないという事。
もしかすると、以前湊さんが言っていた自分の娘を紹介してくる上司とはこの人の事ではないだろうか。
「なら、私は本人が言わない限り、何もする気はありません」
「私の言葉が理解出来ていないようだな」
「理解出来てますよ。それを踏まえて、これが義務ではないのなら、あなたが何を言ったところで私は知りません、と言ってるんです。それと、見合った相手がいいという助言はありがたいですが、親でもない方の言う通りにする義理もありませんしね」
他人に口出しされたとしても、それに従うつもりはさらさらない。
「断るというのであれば、こちらにも考えがある」
「今度は脅しですか? ただの大学生でしかない小娘なんて、最終的に脅せば言うことを聞くとでも思ってるようですが……警視長さん、あなた、それでも立派な警察官ですか?」
今度は、睨みつけてくる。今更ながらに、ここまで煽ってしまった私に後悔しているが……言わないと腹の虫が収まらないのも事実だ。