イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
彼女は、そんな私の行動に少し驚くような目を一瞬していた。私が慌てるか見せないでくれと懇願するかとでも思ったか。
「それで、湊さんに見せますか? 別にいいですけど、早瀬さんが湊さんの彼女になれるという可能性はありませんよ?」
「何? 泣きついてでもしてそれは嘘だと言えば信じてもらえるとでも思ったの? 私の方が付き合いは長いんだから、アンタより私の方を信じてくれるに決まってるでしょ」
まぁ、確かに付き合いは私よりもはるかに長いでしょうけれど……そもそも私恋人ではないし。悲しいけれど、もう踏ん切りは付けると決めている。
それに……私の事は、もう忘れてほしいと思ってる。あんなに誇りを持って働く警察官さんに、例えでも私のせいであんな事を言わせてしまったのだから、私は近くにいないほうがいいから。
さっき、提案があるって言っていた。一体その提案はどんなものだったのだろうかと気になるけれど、聞きたくなかった。……怖かった。
でも、アルバイトは終わったけれど、裏切る事はしない。恋人がいる、という事実に信憑性を持たせるための3ヶ月だったのだから、ここで別れましたなんて言ってしまえばこれまでの3ヶ月が水の泡になる。
「早瀬さんのお父上からお聞きしませんでしたか? 私は、湊さんが何か言うまで何もしませんって。だから、その判断は湊さんに決めてもらいます。早とちりは嫌ですし」
「っ……」
その時、パチンッ、と乾いた音がこの個室に響いた。そして、ジンジンする私の左頬。
穴が開くんじゃないかというほどの、鋭い視線が私を貫いた。
「……警察官さんは、国民に手をあげる事もするんですね。私、何か叩かれる事でもしましたっけ」
「こ、のっ……」
「湊さんの彼女に私は相応しくないと思っているようですけど、貴方も一緒じゃないですか。警察官だというのに、私情を挟んで守るべき国民に手をあげる。その格好ですからお休みでしょうけれど、それでも許される事じゃないですよね」
親が親なら、娘も娘。脅迫までして、手もあげてくる。あの早瀬警視長と同じだ。
これが、国民を守ってくれている警察官だなんてがっかりだ。
「っ……汚い手を使って人のものを取る貴方こそ、許されないじゃない!」
「汚い手を使った証拠は? 人のものと言うけれど、湊さんはものじゃないですよ」
「っ……調子に乗らないでっ!!」
興奮して声を荒げる彼女に、自分のスマホを見せた。
「どうぞ、湊さんにその写真を送ってください。誰なのかもお伝えしてくださいね。私と男性の顔がそっくりですから、すぐに分かると思いますよ」
「っ……」
「その後私も電話をかけますから。あぁ、ちゃんとスピーカーにしますので、湊さんが一体なんて言うか一緒に聞きましょうか」
「あ、んた……っそんなことして怖くないのっ!?」
「別に? どうせ隠したところで彼は警察官ですから時間の問題ですし」
それにもう、私は彼女ではないし。いや、そもそも彼女ではないしアルバイトも終わってる。それにきっと、鋭い湊さんならこの状況をすぐに把握して対処してくれる事だろうし。
軽蔑されるならそれでいい。私は、彼にとって邪魔にしかならない存在だから。
「ほら、どうしました? それとも……何故私と一緒にいる時にこの写真を送ったのか聞かれるのがマズいからですか?」
「っ……こんなことしてっ、ただじゃおかないからっ!」
その時だった。
「何煩くして……えっ」
「ぇ……」
部屋に入ってきた人に、絶句した。
忘れもしない。私と目元がそっくりで、少し茶色がかった私の髪がお揃いの……50代くらいの女性。
私の、母だ。