イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

「話は終わったか?」

「あ、はい、終わりました……」


 何故彼は私の名前を知っていたのだろうか。お見合い相手の名前しか知らないはずよね。

 いや、でもこの人は警察官だ。顔に出ていた、とか……?


「あ、あの、よく、分かりましたね……どうして?」

「さぁ?」

「えっ……」


 さ、さぁ? って、どういう事……?

 答える気はない、と?


「名乗ってなかったな。矢野湊。聞いているだろうが警察官だ」


 琳から聞いていた通りの人だった。

 ついでに言うと、とても顔が整っていらっしゃる。きっとモテるんだろうな。


「君が代わりに来た、という事はこの縁談は却下、という事でいいのか?」

「あ、はい……」

「そうか。それは俺も助かる」


 彼は、最初から断るつもりだったらしい。さっさと断ってご飯を食べるために来たのだとか。私と同じことをしに来たようだ。

 まぁ、知らない人とご飯というのは少し気まずくはあるけれど、こんなに豪華な料理にありつけられるのだから文句は言わない。


「……で、その50万って?」

「えっ……」


 ようやく料理が運ばれてきて、目をキラキラさせていたところで、そう言われてしまった。危うくカトラリーを落とそうとしてしまったが、しっかりと握っていた為非常事態には至らなかった。

 そういえば、見破られて琳に電話した時に言ったな、50万って。今更ながらに何とも恥ずかしいというか、何というか。やっちまった。


「そうだな……お前の様子を見るに、だいぶ多い金が必要らしいな」

「……」

「予期せぬ事で生じた高額の支払い、ってところか」

「……」


 さすが、警察官。まさに、その通りでございます。

 とはいえ、さすがに母親が実の娘の名前を書いた借用書を置いて蒸発するなんて事は思いもしないだろう。彼は警察官だからここまでバレてるけど、これは分からないはず。

 けれど、もしバレたら……恥ずかしい気がする。実の母親に借金押し付けられて蒸発されました、なんて……はは、笑えない。


「そうだな……じゃあ、俺はアンタにいいアルバイトを提供しようか」

「……え?」
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