イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
 話しかけてきたウエイターに用件を伝えると、席に案内してくれた。

 その先にあった席には一人の男性が座っていた。

 スーツを着こなす短髪の男性は、細身でスッとした顔立ちだ。足の長さからするに、きっと高身長だと思う。


「君が今日のお見合い相手か」

「あ、はい」


 そう答えつつ、ウエイターに椅子を引かれて落ち着いた。

 私が思っていた警察官とは違った雰囲気の人だ。エリートの偉い人だったからもっと厳つい人なんだと思っていたけれど……そんな事はなかった。表情筋は硬そうだけれど。


「初めまして、清水琳さん」

「あ、はじめま……」

「……の、お友達の高木瑠奈さん」


 その瞬間、身体が硬直した。そして、少しの沈黙が訪れる。ここだけ、時間が止まったように感じた。

 何故……何故その名前が出てくるんだ。……私の名前が。

 固まった表情のまま、私はスッとスマホを取り出した。すぐに電話帳を開き、履歴の一番上をタップした。すると、もしもし何? と彼女の声がスマホ越しで聞こえてくる。

 最初の一声は、これだった。


「……琳、バレても50万くれる?」

『はぁ? 私そんなケチじゃないけど』

「うん、安心した」


 忙しいから切るよ、と彼女の声は消えていった。

 よし、50万は確定だ。となると、まずはこの状況を何とかしないといけない。断る事もこのバイトの一つだからだ。

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