裏社会の私と表社会の貴方との境界線
事件概要
着いたところは、市内にある大学だったようだ。
「お待ちしておりました!真白・雨晴ペアであっていますね?」
角を曲がったところにいた警官らしき男の人が、私達に話しかけてきた。
スカイ学園側が話を通してくれたのだろう。
「ああ、そうだよ。事件現場に案内してくれるかい?」
「了解です!」
真白がどうも手慣れていたようで、私の代わりに話を進めてくれた。
正直、とても助かった。
警官が事件現場に小走りに向かったのを見て、私達も後に続く。
「ここです。…それでは私は失礼します!」
そう言って私達の案内を終えた警官は、来た道を戻っていった。
一緒にはいてくれないようだ。
「ねぇ、詳しい話とかは聞かなくてもいいの?」
真白は一瞬きょとんとした顔を見せてから、「そっか」と独り言を言う。
「…ああ、問題ないよ。アナウンスが流れるから」
(アナウンス…?)
私の知る限り、アナウンスが流れるようなものは1つしかない。
それは…学校から配布されたスマホ。
見事に予想的中。
真白は自分のスマホを出し、その途端アナウンスが流れ始めた。
『4ペア中1ペア到着を確認しました。それでは、今回の事件概要を伝えます』
「僕達が1番だったみたいだね。これなら、僕達の勝ちも同然だよ」
勝ち誇ったような顔で言われましても…。
そんなのは他のペアが来るまで分からないんじゃ、それにまだ概要も聞いてないのに…とは言わないでおく。
『被害者は間谷朔也21歳の男子大学生と、蓮林晴琉22歳の男子大学生の2人。間谷は刺殺、蓮林は銃殺。警察から届いたものを読み上げますか?』
いつもやっていて手慣れているのか、真白は悩むことなくすぐに「はい」をタップした。
「これいちいち聞かなくてよくなーい?1回しか言われないらしいけど1回で、全部覚えられるし」
「えっ…」
これは記憶力テストでもあるようで、1回しか読み上げられないらしい。
真白は「1回で覚えられる」と言っていたので内容は短く、覚えやすいものなのだろうか。
真白はとても余裕そう。
じゃあ頑張って聞かなくても平気かも…なんて考えは、すぐに打ち砕かれた。
***
「なんでこの量をすぐ覚えられるのよ…」
もう疲れてしまった。
なんせ、思った3倍ほど理解も大変だし簡潔すぎるし…。
今も余裕の様子の真白が、とても羨ましい。
内容は私達の調査についてだった。
事件現場はここ、宇津木大学の庭で、事件が起きた時刻は午前1時過ぎのよう。
警察によると、2人はなんのためかは知らないがこの中庭に午前1時前に集合したよう。
蓮林は間谷に1年の時からいじめを受けていたそうで、その関連で集まったのではないかと予想。
蓮林より間谷は先に来ていて、蓮林を待ち伏せ。
間谷は蓮林が来て早々に、近くにあった植木鉢で頭部を殴った。
ただ、運が良いのか悪いのか…その一撃では蓮林に致命傷を負わせることはできなかった。
焦った間谷は念のため持ってきておいたナイフで殺そうとしたが、蓮林はそれを止めてナイフを奪った。
けれど、間谷は攻撃をやめず殺意を向けてきたので、蓮林は身を守ろうと必死になり間谷にナイフを刺して刺殺。
ここまではおそらく合っているだろう。
ここで、私達に調査依頼が入った。
調べるのは、「本当にこの2人は相打ちになったのだろうか」だ。
間谷は刺殺されたが、蓮林も銃殺で死んでいる。
銃がこんな一般的な大学に“たまたま”あるわけがない。
間谷は銃も持ってきていたという可能性も捨てられないが、蓮林と間谷以外…その他の誰かがこの場にいて殺したという可能性もあるという事だそう。
銃には、使用したであろう間谷の指紋が付いていたそうだ。
警察側は相打ちだろうと踏んでいるそうだが。
「…まあ、ちょうどいい事件があったから学園側が持ってきただけだね」
そういうこともあるのだろうか。
それだとなんだか申し訳ないというか…。
それでも、私達がこの事件を調べなければいけないのは変わりない。
せめて真白の足は引っ張らないよう頑張らないと。
「か〜れん」
「「うるさい黙れ」」
私とツキの声がかぶる。
いつのまにか来たユウが、私の肩に手を置いて私の名前を呼んだ。
そんな呑気な気分じゃないので、辛辣な態度をとった。
ちなみに、気配を消していたようだが私にはバレバレだった。
「…っぷ。くすくす。なんでそこがかぶるのよ、ツキ」
私は思わぬところで言葉が被った事がおかしくて笑った。
振り返るとそこにはユウ、レン、ツキ…それと知らない女子生徒が立っていた。
どうやらこのペア達が選ばれたようだ。
「雨晴、この人達は知り合いなのかい?」
いきなりユウが現れたことにも驚かずに、質問をしてきた。
(この子…本当に一般人?)
気配はほぼ確実になかったのに…気がついていたとでもいうのだろうか。
私にはそこがどうも引っかかった。
「…ええ。この男子3人は幼馴染よ」
***
私達マフィアにも得意なこと、不得意なことが存在する。
ただ、共通してできることは「気配を消すこと」「相手を正確に狙えること」「足音が最小限であること」「常人より体力が大幅に多いこと」…と、たくさん存在する。
けれど、どれも一般人にはない、いやあるはずのない能力だ。
例えば、一般人からしてみればいきなり人が消えたり現れたりしたように見えてしまう。
だから、こんなにも今真白が冷静だということに、私はひどく違和感をもった。
私は「真白斗亜」は偽名で、彼が「真聖ノア」なのではと深く詮索することを考えた。
***
「来夢ユウ、来夢レン、来夢ツキね。そこの3人は兄妹よ。全員幼馴染なの。それと…」
私はユウの隣にいた女子生徒を見つめた。
ショートで髪にはたくさんのヘアピンに、ぱっと見だけでメイクをしている事が分かる女子力が高そうな子だ。
ユウのペアの子の情報なんて1つももっていない。
だから、女子生徒に全振りするしかなくなった。
女子生徒と目が合う。
それから、女子生徒は考えるそぶりを見せてから。
「私は、ユウくんとペアの藍和柚月っていいます!」
藍和は、ぺこっとお辞儀をした。
「藍和、ね。私は雨晴華恋よ、よろしく」
「はーい!よろしくです!」
片手を元気よくあげて上目遣いで見てくる。
こういう子がいわゆる「かわいい」になるのだろうか。
正直、私からしたらこのタイプの子は苦手。
「あ!斗亜じゃん!」
また後ろから真白を呼ぶ女の子の声がした。
誰だろうと思い、奥の方をじっと見る。
どうやら最後のペアが到着したところだったようだ。
「千智と紺凪か。久しぶりかな?」
真白の知人だったようで、親しそうに名前で呼んでいる。
千智という少女は髪は茶髪で高めのポニーテールにして結んでいる、スポーティーな感じの子。
紺凪という少年は口元にほくろがあり、にこにこしていて爽やかな感じの子。
「んー2週間ぶりだよね?」
2人はユウ達の隙間を通って、私達の前に来た。
「ああ、そうだったね。ごめんね、僕忘れやすいから」
「いやいや、それは嘘でしょ」
千智という女子生徒が、真白の頭をチョップした。
真白がははっと笑い飛ばす。
それから真白にくるっと背を向けて
「そうだ!自己紹介しとくね!私は白綾千智で、こっちが…」
「僕は、香宮夜紺凪。よろしくね」
にこっと香宮夜が爽やかに笑うが、私はその顔をよく知っている。
白綾千智&香宮夜紺凪コンビ。
裏社会では有名な2人組で、2人はいとこだという。
千智が接近戦で紺凪が遠距離から狙うという戦法を取るよくいるコンビだが、とにかく強いらしい。
なぜこの2人が真白と接触しているのか…。
(情報が漏れた?…いや、そんなはずはない)
ナイトメアの情報が漏れたことなんてない。
もし流失したとしても、確実に仕留めてきた。
これは調べる必要がありそうだ。
「君は…雨晴華恋ちゃんだよね?」
「はっ…?なんでお前…」
「ツキ」
ツキが危険を感じたのか、制服から銃を出そうとしているのが見えて止めた。
流石に一般人の前でそんなことをしたら、嫌でも殺さなきゃいけなくなる。
私が視線で伝えると、ツキはチッと舌打ちして武器を戻した。
「…なんで私の名前を知ってるのかしら?」
何事もないように白綾と香宮夜に聞いた。
これはあくまで、この2人を調べるためだ。
「雨晴さんって有名人だよね?大企業グループ雨晴家の娘のお嬢様、雨晴華恋って」
(まあ、そういうことにしておいてやるか…)
有名ではあるが、私の顔は屋敷に来た関係者以外は見たことがないはず…。
やはりこの2人は裏社会の人間だ。
1つ気になるのは、なぜ自分が裏社会の人間だという事が分かるというリスクを犯しても話しかけてきたのか…だが。
「そうね、私が華恋よ」
いろいろと面倒ごとが増えてしまったようだ。
「お待ちしておりました!真白・雨晴ペアであっていますね?」
角を曲がったところにいた警官らしき男の人が、私達に話しかけてきた。
スカイ学園側が話を通してくれたのだろう。
「ああ、そうだよ。事件現場に案内してくれるかい?」
「了解です!」
真白がどうも手慣れていたようで、私の代わりに話を進めてくれた。
正直、とても助かった。
警官が事件現場に小走りに向かったのを見て、私達も後に続く。
「ここです。…それでは私は失礼します!」
そう言って私達の案内を終えた警官は、来た道を戻っていった。
一緒にはいてくれないようだ。
「ねぇ、詳しい話とかは聞かなくてもいいの?」
真白は一瞬きょとんとした顔を見せてから、「そっか」と独り言を言う。
「…ああ、問題ないよ。アナウンスが流れるから」
(アナウンス…?)
私の知る限り、アナウンスが流れるようなものは1つしかない。
それは…学校から配布されたスマホ。
見事に予想的中。
真白は自分のスマホを出し、その途端アナウンスが流れ始めた。
『4ペア中1ペア到着を確認しました。それでは、今回の事件概要を伝えます』
「僕達が1番だったみたいだね。これなら、僕達の勝ちも同然だよ」
勝ち誇ったような顔で言われましても…。
そんなのは他のペアが来るまで分からないんじゃ、それにまだ概要も聞いてないのに…とは言わないでおく。
『被害者は間谷朔也21歳の男子大学生と、蓮林晴琉22歳の男子大学生の2人。間谷は刺殺、蓮林は銃殺。警察から届いたものを読み上げますか?』
いつもやっていて手慣れているのか、真白は悩むことなくすぐに「はい」をタップした。
「これいちいち聞かなくてよくなーい?1回しか言われないらしいけど1回で、全部覚えられるし」
「えっ…」
これは記憶力テストでもあるようで、1回しか読み上げられないらしい。
真白は「1回で覚えられる」と言っていたので内容は短く、覚えやすいものなのだろうか。
真白はとても余裕そう。
じゃあ頑張って聞かなくても平気かも…なんて考えは、すぐに打ち砕かれた。
***
「なんでこの量をすぐ覚えられるのよ…」
もう疲れてしまった。
なんせ、思った3倍ほど理解も大変だし簡潔すぎるし…。
今も余裕の様子の真白が、とても羨ましい。
内容は私達の調査についてだった。
事件現場はここ、宇津木大学の庭で、事件が起きた時刻は午前1時過ぎのよう。
警察によると、2人はなんのためかは知らないがこの中庭に午前1時前に集合したよう。
蓮林は間谷に1年の時からいじめを受けていたそうで、その関連で集まったのではないかと予想。
蓮林より間谷は先に来ていて、蓮林を待ち伏せ。
間谷は蓮林が来て早々に、近くにあった植木鉢で頭部を殴った。
ただ、運が良いのか悪いのか…その一撃では蓮林に致命傷を負わせることはできなかった。
焦った間谷は念のため持ってきておいたナイフで殺そうとしたが、蓮林はそれを止めてナイフを奪った。
けれど、間谷は攻撃をやめず殺意を向けてきたので、蓮林は身を守ろうと必死になり間谷にナイフを刺して刺殺。
ここまではおそらく合っているだろう。
ここで、私達に調査依頼が入った。
調べるのは、「本当にこの2人は相打ちになったのだろうか」だ。
間谷は刺殺されたが、蓮林も銃殺で死んでいる。
銃がこんな一般的な大学に“たまたま”あるわけがない。
間谷は銃も持ってきていたという可能性も捨てられないが、蓮林と間谷以外…その他の誰かがこの場にいて殺したという可能性もあるという事だそう。
銃には、使用したであろう間谷の指紋が付いていたそうだ。
警察側は相打ちだろうと踏んでいるそうだが。
「…まあ、ちょうどいい事件があったから学園側が持ってきただけだね」
そういうこともあるのだろうか。
それだとなんだか申し訳ないというか…。
それでも、私達がこの事件を調べなければいけないのは変わりない。
せめて真白の足は引っ張らないよう頑張らないと。
「か〜れん」
「「うるさい黙れ」」
私とツキの声がかぶる。
いつのまにか来たユウが、私の肩に手を置いて私の名前を呼んだ。
そんな呑気な気分じゃないので、辛辣な態度をとった。
ちなみに、気配を消していたようだが私にはバレバレだった。
「…っぷ。くすくす。なんでそこがかぶるのよ、ツキ」
私は思わぬところで言葉が被った事がおかしくて笑った。
振り返るとそこにはユウ、レン、ツキ…それと知らない女子生徒が立っていた。
どうやらこのペア達が選ばれたようだ。
「雨晴、この人達は知り合いなのかい?」
いきなりユウが現れたことにも驚かずに、質問をしてきた。
(この子…本当に一般人?)
気配はほぼ確実になかったのに…気がついていたとでもいうのだろうか。
私にはそこがどうも引っかかった。
「…ええ。この男子3人は幼馴染よ」
***
私達マフィアにも得意なこと、不得意なことが存在する。
ただ、共通してできることは「気配を消すこと」「相手を正確に狙えること」「足音が最小限であること」「常人より体力が大幅に多いこと」…と、たくさん存在する。
けれど、どれも一般人にはない、いやあるはずのない能力だ。
例えば、一般人からしてみればいきなり人が消えたり現れたりしたように見えてしまう。
だから、こんなにも今真白が冷静だということに、私はひどく違和感をもった。
私は「真白斗亜」は偽名で、彼が「真聖ノア」なのではと深く詮索することを考えた。
***
「来夢ユウ、来夢レン、来夢ツキね。そこの3人は兄妹よ。全員幼馴染なの。それと…」
私はユウの隣にいた女子生徒を見つめた。
ショートで髪にはたくさんのヘアピンに、ぱっと見だけでメイクをしている事が分かる女子力が高そうな子だ。
ユウのペアの子の情報なんて1つももっていない。
だから、女子生徒に全振りするしかなくなった。
女子生徒と目が合う。
それから、女子生徒は考えるそぶりを見せてから。
「私は、ユウくんとペアの藍和柚月っていいます!」
藍和は、ぺこっとお辞儀をした。
「藍和、ね。私は雨晴華恋よ、よろしく」
「はーい!よろしくです!」
片手を元気よくあげて上目遣いで見てくる。
こういう子がいわゆる「かわいい」になるのだろうか。
正直、私からしたらこのタイプの子は苦手。
「あ!斗亜じゃん!」
また後ろから真白を呼ぶ女の子の声がした。
誰だろうと思い、奥の方をじっと見る。
どうやら最後のペアが到着したところだったようだ。
「千智と紺凪か。久しぶりかな?」
真白の知人だったようで、親しそうに名前で呼んでいる。
千智という少女は髪は茶髪で高めのポニーテールにして結んでいる、スポーティーな感じの子。
紺凪という少年は口元にほくろがあり、にこにこしていて爽やかな感じの子。
「んー2週間ぶりだよね?」
2人はユウ達の隙間を通って、私達の前に来た。
「ああ、そうだったね。ごめんね、僕忘れやすいから」
「いやいや、それは嘘でしょ」
千智という女子生徒が、真白の頭をチョップした。
真白がははっと笑い飛ばす。
それから真白にくるっと背を向けて
「そうだ!自己紹介しとくね!私は白綾千智で、こっちが…」
「僕は、香宮夜紺凪。よろしくね」
にこっと香宮夜が爽やかに笑うが、私はその顔をよく知っている。
白綾千智&香宮夜紺凪コンビ。
裏社会では有名な2人組で、2人はいとこだという。
千智が接近戦で紺凪が遠距離から狙うという戦法を取るよくいるコンビだが、とにかく強いらしい。
なぜこの2人が真白と接触しているのか…。
(情報が漏れた?…いや、そんなはずはない)
ナイトメアの情報が漏れたことなんてない。
もし流失したとしても、確実に仕留めてきた。
これは調べる必要がありそうだ。
「君は…雨晴華恋ちゃんだよね?」
「はっ…?なんでお前…」
「ツキ」
ツキが危険を感じたのか、制服から銃を出そうとしているのが見えて止めた。
流石に一般人の前でそんなことをしたら、嫌でも殺さなきゃいけなくなる。
私が視線で伝えると、ツキはチッと舌打ちして武器を戻した。
「…なんで私の名前を知ってるのかしら?」
何事もないように白綾と香宮夜に聞いた。
これはあくまで、この2人を調べるためだ。
「雨晴さんって有名人だよね?大企業グループ雨晴家の娘のお嬢様、雨晴華恋って」
(まあ、そういうことにしておいてやるか…)
有名ではあるが、私の顔は屋敷に来た関係者以外は見たことがないはず…。
やはりこの2人は裏社会の人間だ。
1つ気になるのは、なぜ自分が裏社会の人間だという事が分かるというリスクを犯しても話しかけてきたのか…だが。
「そうね、私が華恋よ」
いろいろと面倒ごとが増えてしまったようだ。