裏社会の私と表社会の貴方との境界線

共同なんて

まさか、私達以外にも裏社会の人が敵対してるスカイ学園に来てるなんて思わなかったから、流石の私も動揺する。


そんな私を様子の変化に気が付かないのか、ほっぽって真白はありえない提案をした。


「久しぶりに、一緒に調査しない?千智、紺凪」


まるで今までもやっていたような口ぶり。


というより、実際やっているのだろう。


この2人と共同なんて嫌な予感しかしないし、私は反対だけれど。


「いいね!でも、ポイントは割られちゃうよ?いいの〜?」


白綾達は賛成した。


そして真白を煽るように、にやにやと聞く。


「別にいいって毎回言ってるだろう?というか、千智だって一緒にやるつもりで来たんだろ?」


「へへっ、バレてたかー」


にっと笑ってピースをする。


毎回このやりとりをしているのかと思うと、真白の大変さに少し同情する。


(ほんと、めんど…)


雰囲気を崩さないように、私は気持ちをグッと堪えた。


それから、白綾は元気いっぱいに拳を上げた。


「よーし!じゃあ、しゅっぱーつ!!」


「あんまりはしゃぎすぎるなよ」


白綾と香宮夜は(じゃ)れ合いながら、どこかへ歩いていった。


「華恋…」


不意にツキに名前を呼ばれたので、振り返る。


「なに?」


ツキは何か気になることでもあるように、白綾と香宮夜が歩いたところをじっと見つめていた。


私はツキも気が付いていることを悟った。


「…あの2人って、裏社会の奴だよね?」


「そうだと…思うわ。なにが目的かは知らないけど、警戒を(おこた)らないようにしないと」


「そうだね」


ツキは私の意見に、真剣な顔で頷いてくれた。


いつかきっと尻尾を見せるから。


その時を…絶対に逃さない。


***


真白が突然「行こうか」と言って歩き出したのでついて行くと、私達が乗ってきた車より大きな車が停まっていた。


真白は平然としている。


「え…?これに乗るの?」


「そうだけど?」


真白の感覚がバグってるのか。


学園が用意する物が、こんなにもすごいだなんてびっくりだ。


何度私は驚けばいいのやら。


真白が遠慮なく車に乗るのを見て、私が気にしても意味がないと後に続いた。


車は8人乗りで、また自動運転車だった。


「みんなシートベルトしたね?よーし!レッツラゴー!!」


白綾が陽気に右腕を上げて、うきうきで言った。


どうもこのテンションにはついていけそうにない。


やっぱり私の苦手なタイプだ。


「…ところで、どこに向かうの?」


来た道と方向は大体同じのようだけれど。


「少しでも情報をもっている人は、スカイ学園の別館応接室に集まるんだよ。だからそこに行く」


私の質問に、真白が細かく答えてくれた。


「そうなのね。教えてくれてありがとう真白」


にこっと笑顔を見せると「別にー」と言って顔を背けた。


なんで顔を見せないのか気になる。


「…」


不意に視線を感じてきょろきょろと周りを見ると、レンが私達を見つめていたのに気がついた。


「どうしたの、レン?」


私をチラッと見てから、腕を組んで。


「別に、なんでもない」


いつもだったら…「うっさい」とか言うのに、どうしたのだろうか。


微妙な違和感を抱きながら、私達は目的地へと向かって行った。


***


「さぁ〜ついたついた!」


着いて早々ハイテンションで白綾が車を降り、それに続いてみんなが降りる。


「みなさん!待ってましたよ!」


降りると、別館のドアの前に立っていた女性がこちらに走ってきた。


この人は確か。


「私は青菜氷雨(あおなひさめ)。スカイ学園の教諭で、主に事件の証拠集めなどをしているの。よろしくね!」


この先生はフレンドリーだが、白綾よりは親しみやすい雰囲気があり、とても優しそうだった。


対応のいい先生で助かった。


「ささ!早速応接室に来てください!」


私達は青菜先生に背中を押され、半強制的に別館へ入れられた。


***


「奥の部屋よ。先に行っていて」


「ありがとうございます」


白綾がぺこっと頭を下げて、お礼を言う。


それにつられて、私も頭を下げる。


そして、私達8人は奥の部屋へ歩いていった。


***


コンコンッ。


「入りますね」


香宮夜がドアをノックしてから開ける。


「こんにちは。みなさんお揃いで?」


「は、はい!揃ってます!」


1番右に座っていた女性が、元気よく返事をしてくれた。


この人たちが事件の関係者だろう。


「…捜査にご協力ありがとうございます。今回この事件を担当するのは、スカイ学園の在校生である僕達8名です」


香宮夜が全て司会進行を行なってくれている。


私達は香宮夜に、彼女らと向かい合っている椅子に座るよう促された。


「スカイ学園」という言葉を聞いて、部屋はとてもざわざわし始めた。


「スカイ学園ってあの?!超名門校の探偵養成学校じゃ…」


学園について噂をする者。


「そんな学生が事件なんて担当していいの?まだ高校生だよね?」


私達を批評する者。


なにをなんと言われようと、私達がこの事件を解決するのは変わらない。


でも、やるに当たってこの言われようは気分が悪い。


と言っても、私じゃ何も言えない。


少し悔しい。


その気持ちを読み取ったのか、真白が立ち上がって言う。


「大丈夫ですよ。僕がこの事件を担当するからには、必ず真実を突き止めます」


真白は、今までないくらいに真剣だった。


その姿が凛々しく、とても頼り甲斐(がい)があった。


「っ…。まあ、それなら…」


うんうんと周りも頷く。


(ほっ…よかった)


「えっと…ではみなさん、被害者との関係と簡単な自己紹介をお願いします」


香宮夜が言うと「あんたからよりなよ」と少しの間押し付け合いがあってから、1番右に座っている女性が手を挙げた。


「あ、じゃあ…私から」


「…はい。お願いします」


香宮夜が爽やかに、にこっと笑う。


女性は緊張しているのか、一度深呼吸してから。


「私は大学3年の紗倉初美(さくらはつみ)といいます。間谷先輩…とは関わったことがあまりないですね。蓮林先輩とは友人でした…。その、いじめられてるなんて今まで言ってくれなくて、言ってくれればよかったのに…ぐすっ」


きっとすごく仲が良かったのだろう。


そんな先輩が大事なことは黙っていて、そのことで死んでしまったなんて。


きっと辛いだろう。


でも、同情してる暇なんてないんだ。


今はいち早く真実を突き止めないと…。


「辛いのは分かります。話してくれてありがとうございますね」


白綾が泣きそうな紗倉さんの背中をさすって、励ましている。


「次の方…」


「あ、私だわ」


金髪でメイクやピアスなど、とても派手なギャルのような方だ。


「私はねー、大学4年の亜由望斗紀(あやみとき)。蓮林はーまぁ地味で暗い奴?のくせ頭いいしキモって感じで遊んでたよー?」


くすくすと笑う亜由望さんに、嫌気が差す。


何がそんなに面白いのか、わけがわからない


「あと、間谷だよね?あいつとは結構仲良かったよ、いろいろ意見合ったしねー。蓮林のこと一緒にいじってたし」


バンっ!!


突然、紗倉さんが勢いよく立ち上がった。


「あなたのせいで蓮林先輩は…?なんで!!自分のせいでもあるって思えないんですか?!悪いことをしたと思わないんですか!!」


目に涙を溜めて、必死に言っている姿に胸を痛めた。


でも、当の亜由望さんは何も感じないのか、スマホをいじっている。


「はー?どうでもいいんですけど。しかも殺したのって私じゃない、間谷でしょ?ねぇー」


私達に視線を向けてくる亜由望さん。


でも、私はこの人も一緒にいじめていたのだとしたら、非はあるのではと思う。


まあそんなこと言っても、火に油を注ぐだけだ。


「それは知りません。私は真実を知っているわけでもありませんから。少し気持ちを落ち着かせてください。次の方お願いしますわ」


このよどんだ空気が嫌だったので、私は落ち着かせるために言った。


このままで話が進まないから。


「じゃあ僕が。僕は大学4年の西園星那(にしぞのせな)、生徒会長をしています。蓮林さんとは何回か話したことがあります、いじめの現場を見たのでね。それで間谷さんに注意をしたくらいです」


どうやらそんなに関わりはなさそうだ。


でも、いじめの件は引き出せるかも。


「いじめは注意でなくなりました?」


「…まあ、僕の前ではきっぱりなくなりましたよ」


「そうですか」


真白はなぜそんなことを聞くのだろう?


疑問が生まれながらも、話は進んでいく。


「あ、次俺じゃん。俺は夏希旭(なつきあさひ)。んー、別に特にこれといって2人とも接点はないよー。学科も違うしね」


夏希さんも特に情報は無し。


夏希さんは学年2位をキープする優秀な方で、顔立ちも整っているため女子にも人気らしい。


次の人で最後だ。


「最後は私ですね…。私は悠目美亜(ゆうめみあ)、学年代表です。蓮林さんも間谷さんも、あまり話したことはありません」


すごく真面目そうな人だ。


少し暗い雰囲気があるため、1人でいるのを好むような感じがある。


結果、どの人からも事件のヒントになりそうな情報は見つからなかった。
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