裏社会の私と表社会の貴方との境界線

黄泉

私は圧倒的な力を持つ黄泉に憧れ、そしてそれと同じくらい彼女を非難していた。


私は彼女に自ら従っていたわけではない。


その力で支配下にされてしまったというだけだ。


黄泉が人間界に来る理由はたったひとつ。


契約を交わすため。


『あなたの1番大切なものと引き換えに、なんでもひとつ願いを叶えてあげる』


それは黄泉がいつも言っていた言葉。


“1番大切なもの”。


それは、契約者の寿命、命、家族、恋人、親友。


幸せを奪う、そんな残酷(ざんこく)なもの。


本当に願いを叶えてくれるけど、それ以上の絶望を味わうことになる。


それは本来神として間違った行動なのではないかと、私は彼女に何度もそう言った。


けれど、何年経っても答えは同じ。


『人間は神に貢献(こうけん)すべき生き物なの。私達は黄泉神が人間で遊んで、何が悪いのかしら』


彼女と私は別の生き物だと、そう悟ってしまった。


「琉愛、貴女はまだ黄泉とは契約を交わしていないのね?」


「うん、もちろんしてないよ。だって、願いごとも(ささ)げるものも何もないもの」


彼女の笑顔は無機質で、まるでアイリス家にいた時の私が目の前にいるように感じた。


やはり瞳には何も映っていなかった。


そして、私は真白に向かって言った。


「わかったわ。黄泉様が関わっている以上、私は貴方達に協力させてほしいと思うの。真聖家とメア家、そして貴方達の呪いも全て終わらせましょう」


それが女神としてできることである、真鈴とも交わした“約束”。


この子達を幸せにしなきゃ。


それまで、私に付き合ってね。


***


あの日から数日経ち計画もまとまってきた頃、私達はまた平凡な日常を取り戻していた。


相変わらず、というか前以上に距離感に近い真白以外は。


ガチャ。


今日は少し早めの朝ごはんにしようと部屋を出ると、そこにいたのは予想通りというか真白。


まさか、ずっとここで待ってたのかしら。


「あらごきげんよう。貴方、いつから部屋の前で待ってたのかしら」


「おはよう雨晴。さあ?その質問、答える意味あるかな」


にこにこ笑顔で私にそういうものだからちょっと怖い。


なんだろうこの感じ、怒った時のレイに似てる気がする。


そして、真白はさも当たり前かのように隣を歩き出す。


私ももう何も言わない。


真白とこんなふうに歩くのも、ここ数日で普通になってしまったから。


「そういえば、今日は新メニューがあるらしいよ。楽しみだよね」


「…どうせまたろくでもないわよ。前のだって生徒が考えたやつなんていって、よくわからないものだったし。それを食べる貴方の精神もよくわからないわ」


聞いている様子がないから、これ以上言うのはやめておこう。


真白ってばいつも変なのばっかり食べるもの。


食堂についてドアを開ければ、いつものように食事の匂いがする。


私は空いている席を見つけてポーチを置いておく。


すぐに席がなくなっちゃうだろうからね。


「雨晴、ご飯とりいこ」


半ば強引に連れていかれて、私は食べたいものをとる。


この学園は自分で好きなおかずをとって食べるの。


まあ、そのおかげで真白が変なものを食べんるんだけど。


「今日は何をとったのかしら?」


「新メニューの謎肉ー。何も書いてなかったし、おもしろそう」


ほらね、また同じことしてる。


「食べられなくても知らないわよー」


「僕は好き嫌いないんだ」


真白の返答に、私は苦笑した。
< 41 / 55 >

この作品をシェア

pagetop