裏社会の私と表社会の貴方との境界線

黄泉

私は圧倒的な力を持つ黄泉に憧れ、そしてそれと同じくらい彼女を非難していた。
彼女に自ら従っていたわけではない。
その力で支配下にされてしまったというだけだ。
黄泉が人間界に来る理由はたったひとつ。
契約を交わすため。
『あなたの1番大切なものと引き換えに、なんでもひとつ願いを叶えてあげる』
それは黄泉がいつも言っていた言葉。
“1番大切なもの”。
それは、契約者の寿命、命、家族、恋人、親友。
幸せを奪うそんな残酷(ざんこく)なもの。
本当に願いを叶えてくれるけど、それ以上の絶望を味わうことになる。
それは本来神として間違った行動なのではないかと、私は彼女に何度もそう言った。
けれど、何年経っても答えは同じ。
『人間は神に貢献(こうけん)すべき生き物なの。私達は黄泉神が人間で遊んで、何が悪いのかしら』
彼女と私は別の生き物だと、そう悟ってしまった。
「琉愛、貴女はまだ黄泉とは契約を交わしていないのね?」
「うん、もちろんしてないよ。だって、願いごとも捧(ささ)げるものも何もないもの」
彼女の笑顔は無機質で、まるでアイリス家にいた時の私が目の前にいるように感じた。
やはり瞳には何も映っていなかった。
そして、私は真白に向かって言った。
「わかったわ。黄泉が関わっている以上、私は貴方達に協力させてほしいと思うの。真聖家とメア家、そして貴方達の呪いも全て終わらせましょう」
それが女神としてできることである、真鈴とも交わした“約束”。
この子達を幸せにしなきゃ。
それまで、私に付き合ってね。
ーーーーー
あの日から数日経ち、計画もまとまってきた頃。
私達はまた平凡な日常を取り戻していた。
相変わらず、というか前以上に距離感に近い真白以外は。
ガチャ。
今日は少し早めの朝ごはんにしようと部屋を出ると、そこにいたのは予想通りというか真白。
まさか、ずっとここで待ってたのかしら。
「あらごきげんよう。貴方、いつから部屋の前で待ってたのかしら」
「おはよう雨晴。さあ?その質問、答える意味あるかな」
にこにこ笑顔で私にそういうものだからちょっと怖い。
なんだろうこの感じ。
怒った時のレイに似てる気がする。
そして、真白はさも当たり前かのように隣を歩き出す。
私ももう何も言わない。
真白とこんなふうに歩くのも、ここ数日で普通になってしまったから。
「そういえば、今日は新メニューがあるらしいよ。楽しみだよね」
「…どうせまたろくでもないわよ。前のだって生徒が考えたやつなんていって、よく分からないものだったし」
聞いている様子がないから、これ以上言うのはやめておこう。
真白ってばいつも変なのばっかり食べるもの。
食堂についてドアを開ければ、いつものように食事の匂いがする。
私は空いている席を見つけてポーチを置いておく。
すぐに席がなくなっちゃうだろうからね。
「雨晴、ご飯とりいこ」
半ば強引に連れていかれて、私は食べたいものをとる。
この学園は自分で好きなおかずをとって食べるの。
まあ、そのおかげで真白が変なものを食べんるんだけど。
「今日は何をとったのかしら?」
「新メニューの謎肉ー。何も書いてなかったし、おもしろそう」
ほらね。
また同じことしてる。
「食べられなくても知らないわよー」
「僕は好き嫌いないんだ」
真白の返答に苦笑した。
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