離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「無理なんてしてない。今日は本当にすごく楽しかったから。もっとほかにも見てみたいって思うくらいに。それにね、千博さんの趣味? みたいなものを一緒に味わえて、すごく嬉しかった。千博さんの考えを聞かせてもらえたことも本当に嬉しかった。ありがとう、千博さん」

 美鈴の言葉に、千博は少し驚いた表情をするも、すぐにふわっと柔らかい微笑みを浮かべる。それはまるであの頃の千博のような温もりを感じられる微笑み。

 その表情に美鈴が釘付けになっていれば、いつの間にか二人の距離が縮まっている。間近まで迫った千博は「そうか」と言いながら、美鈴の頭に優しく触れてきた。そのまま美鈴を慈しんでいるかのように優しく撫でてくる。

 あまりに突然で久しぶりの接触に美鈴の頬は自然と染まる。

 そのまま赤らめた顔で無意識に千博を見つめるが、千博は我に返ったのか、すぐにその手を離した。

「っ、すまない」
「……ううん」

 二人の間に何とも言えない空気が流れる。

「その……美鈴が気に入ったのなら、またどこかよさそうなところを探しておくよ」
「え? ありがとう?」

 その返しに千博は軽く頷き、今度こそ部屋の中へと消える。

 その場に残された美鈴は両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。

「っ……どうして?」

 どうしてあんなに優しく触れてきたのだろう。どうしてまた誘ってくれるのだろう。

 どうしてこんなに胸が高鳴るのだろう。


 わからないことばかりが押し寄せてきて頭がパンクしそうだ。

 この意味を考えたい、考えなければと思うのに、今はただ千博に触れられた余韻に浸ることで精一杯だった。
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