離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 そして、それを理解すると同時に、自分も同じことをすればいいのだと気づいた。

 自分の中に愛がなくともその真似事はできる。器用な自覚はあったから、演じることはわけもないと思った。

 実際、千博は容易く己を作り上げた。さすがに、手嶋のようにパワフルな人間を真似することは難しいが、人に好かれる優しい人を演じるだけなら簡単だった。

 それから千博を取り巻く環境はあっという間に変化した。元々のスペックの高さも相まって、少し親切に振る舞うだけで誰も離れていかない。それどころか千博のために動いてくれることもしばしば。千博は格段に生きやすくなった。

 おかげで演じていなければ生きていられないほど、偽りの自分が染みついている。

 だからきっと、美鈴に対してあんなことをしたのも、偽りの愛が染みついているだけなのだ。そう考えないと辻褄が合わない。

 乱れている心は単純に制御できなかった行動に驚いただけ。理屈がわかれば問題ない。すぐにいつもの自分を取り戻せる。

 千博は未だに落ち着かない心を抱えながら、そんなことを己に言い聞かせていた。
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