離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 思考とは離れゆく体に、千博の中で一つの仮説が浮かび上がる。

 このどうしようもない苦しさも、強い焦りも、美鈴への苛立ちも、そして、言うことを聞かないこの体も、すべて美鈴への想いゆえと考えれば辻褄が合う。

 笑顔で美鈴に接する磯崎の存在が面白くなくて、美鈴を失うことに焦りを覚え、美鈴がほかの男を親しく呼ぶのが気に入らない。そして、自分のものだと示すように美鈴に触れる。それはただの嫉妬する男にしか見えない。

 千博は、己の中に存在するはずのないその感情を意識し、小さくつぶやく。

「そんなはずはない。あり得ない」

 感情を消し去ろうとするかのように胸元をぎゅっと握りしめる。もはやそんなことをする時点で、その存在を認めているのと同義だというのに、千博はそれには気づかなかった。

 胸の中のざわめきに、ただただ不快な表情をあらわにして、その存在を否定し続けることしかできなかった。
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