離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「千博さん。この前話した通り、明日は洋子との約束があるから、朝から出かけるね。夜には帰るから」
「うん、わかっているよ」

 千博は心得ていると頷く。事前に約束のことは伝えていたから、それは普通の反応だろう。

 しかしながら、この後言おうとしている言葉に対する彼の反応は予想がつかない。少し怖いとすら思う。

 美鈴はそんな怖さを追い出すように、一度しっかりと息を吸ってから口を開いた。

「あと……明日、洋子に離婚のことを話そうと思ってる」

 瞬時に緊張が走り、場がしんと静まる。

 それは離婚の話題を出したことによる緊張か、あるいは第三者へ報告することへの抵抗感からくるものか、もしくはその両方か。

 反対される可能性もあるとは思いながらも、千博の返答を静かに待つ。

 おそらく美鈴が直接洋子に伝えずとも、千博と洋子が同じ職場に勤めている以上、いつかは洋子の耳にも離婚の話は届くだろう。

 だが、美鈴たちのことをとても祝福してくれた友人に、噂話でその事実を伝えるという不誠実なことはしたくない。きちんと自分の口から伝えたい。

 そんな思いで千博を真っ直ぐに見つめる。

 一方の千博はというと、手元のコーヒーカップを見つめている。そして、そのまま美鈴とは目を合わせずに、小さく一言だけつぶやく。

「……そうか」
「うん……理由は言わないけど、離婚することだけは伝えておきたいから」
「わかった」

 今度はあっさりと了承の言葉が返ってきたが、そこでまた沈黙が訪れる。心なしか空気が重い。

 美鈴は反対されなかったことに安堵するも、場の空気が重くなってしまったことに気落ちする。

 きっとこれから幾度となくその話をしなければならないだろうに、たったこれだけの話でさえ気が重くなっている自分が情けない。

 美鈴は残り少ない貴重な時間を無駄にはしたくないと、気分を変えるように話題を思いきり明るい方向へと変えることにした。
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