離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「私、その頃のことなんてずっと忘れてたんだけど、塾の子供たちを見ていたら、ふと思い出したんだよね。それで思ったの。今の私もそのくらい大きな夢を持ってもいいのかもしれないって」
「……海外進出?」

 先ほど自分で口にした言葉だが、随分と野心的に聞こえるその言い方に、美鈴は小さく笑いをこぼしてから胸の内を語る。

「そこまで大げさではないけど、海外も含めてもっと幅広くやりたいことを見つけてみようかなと思ってる。外国語を使う職を探すなら、そのくらい視野を広げる方がいいとも思うから」
「そうか……いいんじゃないか。美鈴ならできると思う。きっと自分に合った素晴らしい職を見つけられるよ。君の実力は本物だからね。応援している」

 軽く笑みを見せ、少しだけ視線を合わせてくれた千博に、美鈴の胸はほのかに温まる。

「うん……ありがとう。あの頃みたいに頑張ってみる」

 すぐに向かいから聞こえてきた「頑張れ」という小さな声に、美鈴は強く励まされる。

 磯崎にも同じような話をしていて、彼からも千博以上に応援の言葉をもらったのに、美鈴の心の在り方はそのときと今とで大きく違う。

 どうして千博からの言葉はこうも心に響くのだろうか。美鈴をひどく傷つけた人だとわかっているのに、今の千博にさえやはり美鈴の心は動く。

 未だに自分の心がわからなくてもどかしい。いっそのこと千博と関わらない方が心はずっと楽なのかもしれない。

 それでも別れのそのときまで、自分の心にも千博にも真っ直ぐ向き合っていきたいと思う。たとえその先にどんな答えが待っていたとしても。
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