離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
「……だから、それは理想の環境を作っていたからだと言っているだろう」
「はあ、まだそんなこと言ってるのかよ。お前、ちゃんと向き合えてないだろ。美鈴ちゃんと向き合えてるなら、気が休まらないなんてことないはずだ。自分を偽らなくていいんだから、むしろ前より休まるはずだろ」

 確かにその通りだと一瞬思う。自分を作らなくていい分、楽ではあるはずだ。本来の自分で過ごせる方が疲れはしない。

 けれど、それは二人の関係性に大きく左右されるだろう。美鈴と微妙な関係にある今は、何も気にせず、自分の思うままに過ごすことは難しい。

「……離婚を控えているんだ。偽る必要がないとしても、そんな相手に気を遣わないのは無理だろう」
「別に気を遣うのが悪いとは言ってないだろ。ただ本当の自分を出しきれてないんじゃないかって言ってるんだよ。俺にしてるみたいにもっと素で接してみろよ」
「手嶋と美鈴とじゃ違うだろう」
「完全に同じにしろとは言ってない。でも、俺に対するのと比べて、美鈴ちゃんにはまだ自分を見せきれてないだろ。変に嘘をなくそうとして、無理に彼女を愛さないようにしてるんじゃないか?」

 そもそも愛を持っていないのに、無理に愛さないとはいかなることか。偽って作っていたものを消しただけなのだから、無理なことなど何もないだろう。

 けれど、嘘の愛を示していたときの方が自然体でいられたような感覚もなぜかあって、千博は考え込む。

 自分は何か無理をしているのだろうか。嘘をなくすだけでは足りないのだろうか。

 そのまま深い思考に入りそうになるが、慌てて意識を浮上させて、手嶋のただの屁理屈だと己に言い聞かせる。
< 75 / 216 >

この作品をシェア

pagetop