はるけき きみに  ー 彼方より -
 指差したところに木立がある。その元に建物らしい屋根が見えていた。

「あれが倉庫なの?」
「そうだ、今は古びて廃墟になっているがな。無人だから身を隠すにはうってつけだろう?」

 木の梢が風に大きく揺れている。そのたびにカラスが騒いで上下していた。
 カアカアカア・・。
 赤みを残した空に動く黒い点は不気味に思えた。

「ま、まるで幽霊でも出て来そうね」
「出るかも知れないぞ、うらめしやーってね」
「ええっ!」

 舟頭はさばさばした顔で、
「下りるのが嫌なら元の場所まで乗せていくぜ、どっちでもあんたが選ぶんだな」

 菱屋の舟を見た。
 今にも葦の中に消え入りそうだ。
 ここであきらめる訳にはいかない。

「下ろしてちょうだい、なんとしてでも探ってみるわ」

「そうかい、だったらもらうものを貰おうか」
 ニンマリ笑って手を出した。
 約束の駄賃を払うと舟は見る見る離れて行く。

 後戻りはできない。
「いま多鶴さんを救えるのは私だけ、行くしかないのよ」
 こぶしを握った。
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