はるけき きみに  ー 彼方より -
 紫音は倉庫に近づいた。
 月明かりが辺りを照らす。

 目前に浮かび上がったのは文字通り不気味な廃墟だ。
 あちこちの壁が崩れツタが絡みついている。
「本当に幽霊でも出そうね」

 倉庫は二棟あった。
 こわごわ一つ目を覗き込む。

 叫びそうになった。
 黒いものが飛び出したからだ。
 コウモリだ、バサバサと羽を鳴らして飛んで行く。

 叫ばなかった自分をほめてやりたい。白髪の舟頭がいたら筒抜けになってしまうからだ。

 次の倉庫には瓦礫があった。
 その陰から中をのぞく。

 ひっそりした様子に、
「ここではないのかしら」

 そのとき影が動いた。

「紫音さま」
 女の声だ。
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