はるけき きみに  ー 彼方より -
 おぼろな月が照らしているのは、多鶴だった。
「ああ、多鶴さん、無事だったのね」

 夢中で走り寄った。

「さっきの舟頭が連れて来たのです、ここに身を潜めていろと言って」
「さっきの舟頭って、あの白髪の人?」
「そうです」

 辺りを見た、その舟頭はいない。
 代わりに娘たちがいた、倉庫の奥から不安げに見ている。

「昼間、菱屋の舟屋で声をかけてくれましたよね」

 八重と小間物屋へ行ったときのことだ。
 菱屋と隣接する舟屋で、紫音は白髪の舟頭に声をかけた。
『今日はいい日和ですね』
 と。

「そうよ、多鶴さんが乗せられているかもと思って言ってみたのよ」
「ですから私は・・」
「機転を利かせて自分の着物の端を覗かせた?」
「そうです」
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