はるけき きみに  ー 彼方より -
「舟頭さん、この方は怪しい人ではありません」
 多鶴が紫音をかばう。
「この方のお父様は兄の上司でした。だから知り合いなのです」

「・・ほう」
 舟頭は紫音の頭から足の先までを見た。
 キラと目を光らせてから、
「あやしい? それを言うならよっぽど俺のほうが怪しいだろうがな」

 手の包みを掲げて、
「ほらよ、今晩の飯だ」
 奥にいる娘に放り投げた。

「俺たちも食おう。食いながら話を聞かせてもらおうじゃないか」
 中には握り飯が入っていた。

「言っておくがな、俺も危ない橋を渡っているんだ。降って湧いたようにやって来た娘さん、名前を聞かせてもらおうじゃないか。どうしてあんたはこの場にいるんだ?」

「私は、紫音といいます。篠沢・・紫音です」
「・・っ!」
 舟頭が瞠目した。

「しのざわ? もしや、役所に勤めていたあの篠沢丹波の?」
「父を、丹波を知っているのですか」

「あ、いや、知っているというほどでは。だがあの御仁は、庶民にも優しく名君だと評判だったからな」

 と再び紫音に目をやった。
 まじまじと穴が開くほど眺めていた。
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