はるけき きみに  ー 彼方より -
 ・・と、そんなマシューに近づく影があった。
「いや、傑作でございますなあ、今のやり取りは」

 ぬっと顔を出したのは近江屋だ。

「つけていたのか、俺らの後を」
「いやぁそんなことは。私もこの道が帰り道でございますからね」

「それで、分かったのか、さっき英語で何を言ったのか」
 近江屋は、傑作でございますなあと言ったのだ。

「そりゃまあ話の流れからだいたいは・・。いや、こういうのはなまじ英語を習ってない者がわかるのですよ」
 したり顔で答える。

「実は、ですね、あの侍は英語で苦労しているのです」
「え?」

「鹿島様も日本人の通訳を養成しようとしていましてね。あの侍も、なんですかえい、びい、しい、ですか。その英語の塾生に選ばれて頑張っているのですがね」

 この堺では、異人の通訳がこぞっていなくなった。
 それならば日本人の通訳を育てようという機運が高まった。自然の流れだった。

「こう言っちゃなんですがね、実は、あの方は塾生の中でも一番の劣等生なのですよ。きのうも教本を睨んで、わからん、わからんと頭を抱えておりましたなあ」
 と言うと大声でわらった。

 マシューは改めて近江屋を見た。
 なんだかんだと話しかけて当然のようについてくる。
 ひょうきんそうでいて抜け目のない顔が気になった。
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