きみと私の恋のみち〜想いを伝えたい〜
~月音くんside~
はっきり言って女子は意味不明だ。本当かもわからない噂をすぐ拾っては面白がり、俺がちょっとでも見たり、手伝ったりしたら好きだと騒がれる。そんな女子ばっかりだ。ほかのクラスに至ってもそう。俺が一人でいると甘い砂糖に群がるアリのように寄ってきてはわざとらしく体をくねらせ、甘ったるい声で話しかけてくる。クラスでマシな人といえば学級委員の明日葉愛羅だけだ。
俺は昔からなるべく面倒ごとやトラブルにはかかわらないようにしてきた。中学生活では特に。誰かをかばえばその子が好きだとか噂されるし、俺の一言で騒ぎが小さくなったらなったでヒーロー扱いされてうっとうしい。逆に騒ぎが大きくなったら罪悪感があるし。俺にはクラスメートが全員小学生に見える。香波ゆずはとその取り巻きたちに関してはもう最悪。とにかく自分がかわいいと認められたくて仕方なくて、自分が一番モテていると勘違い。そういう女子に一番絡まれたくない。だから俺は絡まれないように一番にきては勉強している。そうすれば邪魔をしないようにと女子でも気をつかってくれるから。まあ、そのおかげで勉強もできるようになったし一石二鳥ってやつ。
「ねえねえ、亜希様!」休み時間になるといやでも女子が寄ってくる。香波が甘ったるい声で話しかけてきた。
俺は興味なさげに小説に目を落とす。「なんだよ。」一応返事はする。いらだちをふくんだ声で言ったのに、そんなこと気にする様子もなく赤色のリボンが結ばれており、ピンク色の包み紙に包まれたものを差し出した。
ハート柄のマスキングテープで手紙らしきものも包み紙に張り付けられている。
「今日、私クッキーを焼いてきたわ!ぜひお食べになって。・・・あと、この手紙、私の気持ちですから読んでください。」
うえ、いらねえよ。手作りクッキーなんて。俺こういう女子が作る菓子って甘すぎるし変な味がするから嫌い。だいたい俺、甘いもの嫌いなんだよな。
「ごめん、いらない。それ、前も食べたし。」はっきりと口にすると、香波は一瞬落ち込むようなそぶりを見せたものの、すぐに笑顔になり、口を開く。
「じゃあ、せめて手紙だけでも。別にクッキーは食べなくてもよろしいですから手紙だけは、ね?」猫なで声できゅるりとかわい子ぶった目を向けてきて、どうすることもできず、しぶしぶ封筒を受け取る。封筒には、わざと書かないとこんな丸っこくなんねえだろ、って思うほど丸っこい文字で亜希様へ、と書かれ、ハートのシールやらでフリルのついたデコレーションシールやらで飾られていた。
オレが受け取ると、香波は違う話題を振る。
香波は、オレの前だといつもより一オクターブ、いや三オクターブ高い声で愛想よく、笑顔で話しかけてくる。そのさまはまるで、セールスマンのお得意の作り笑顔だ。
「そういえば亜希様、陸上部で新記録、出したのでしょう?」
「ああそうだよ。」
味もそっけもない返事を返したのにもかかわらず、「えー、うそーっすごぉい‼」大げさすぎる大声を出す。するとほかの女子-香波のグループの夕暮や花道-も寄ってくる。夕暮は、細いみつあみをカチューシャみたいにしてハーフアップにした髪を揺らせて、スカートをわざとらしくひらめかせて寄ってきた。
「ねえ、何話しているの?亜希様、今日私の家でみんなで遊ぼうと思っているんだけど亜希様、いかない?」「無理。そういうの何しゃべればいいかわかんないし。」
女子たちと話すのが息苦しくてトイレに行くと口実を作って教室を出た。そしてトイレにはいかず、中庭へ向かった。中庭の隅っこにある桜の木の根にしゃがみ込む。暑いけれど日向よりはずいぶんとマシで、いらいらするといつもここへ来る。桜の木が守ってくれるようで好きなのだ。
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