君の脳内ジャックします。
ep.16
「…なんで勇希先輩がいるんですか」
「いちゃ悪ィか」
「や、だって、美化委員ですよ?」
「わかってるわ…じゃんけんで負けたんだよ」
委員会の初日。
俺は鈴木さんと一緒に委員会が行われる3年生の空き教室に向かった。
何故鈴木さんはそんなめんどくさい委員会を選ぼうと思ったのか疑問だったが、俺は鈴木さんと一緒にやれるなら何でもよかったし現に一緒の委員会になれたから、めんどくさかろうが結果オーライだ。
そして教室に向かう途中にその疑問を鈴木さんに投げかけてみると、美化委員がめんどくさいことを知らなかったと言う。
鈴木さんらしい…
やっぱりおもしろくてかわいいと思い、思わず笑ってしまったら口を尖らせてヘソを曲げてしまった。何でもかわいい。
鈴木さんと二人で肩を並べて廊下を歩くことが滅多にないことで舞い上がっていた俺は、教室に入った途端見慣れすぎている後ろ姿をとらえてしまい、さっきまで高ぶっていた気持ちが突き落とされた。
「…なんでじゃんけんに負けて美化委員なんすか…」
「なんでお前がそんな落ち込んでんだよ」
「意味わかんねー…」
「俺のセリフなそれ」
そろそろ始まる雰囲気になってきたので、俺たちもとりあえず座ることにした。
委員会は男女一人ずつで組まれるので、勇希先輩の隣には同じクラスであろう真面目そうな女の先輩が座っていた。
近くだとその前の席しか空いていなかったから、俺たちはそこに座るしかない。
「ここでいい?」
「う、うん」
歯切れの悪いような返事をされたので鈴木さんの方を見ると、顔を強張らせつつもほんのり顔が赤いように見えた。
「…大丈夫?」
「え、あ、うん、だだだ大丈夫」
その表情だけでも理由が一瞬でわかる。
教室に入ったときにまずいと思ったけど、やっぱり。
そりゃあそっか。
鈴木さんの好きなタイプの先輩がまさか同じ委員会なんだもんね。しかも鈴木さんの後ろの席にいる。
これは俺の方が大丈夫じゃない。
「それでは、早速校内の掃除用具の点検をしましょう。点検はクラスのペアで回ってもらいます。壊れているものや整頓ができていない箇所などをチェックしてきてください」
配られたチェックシートを持ち、各々教室を出て担当する場所へ向かう途中も、点検中も、鈴木さんはあまり落ち着かない様子だった。
そんな鈴木さんを見かねて、俺はストレートな質問を投げかけた。
「そういえば鈴木さんって、勇希先輩のどんなところがタイプなの?」
「えっ、な、なんで…?」
「好きな子のタイプは参考にしておこうと思って」
「…それ、馬渕くんに言わなきゃダメなの?」
わかってるよ、言いたくないことくらい。
自分でも意地の悪い質問だったと思う。
でも、鈴木さんの顔を赤く染めるのは、後にも先にも俺だけがよかった。
まだ直接話したことさえないであろう勇希先輩が、いとも簡単に鈴木さんの顔を染めたことが、悔しかった。
それに今ここで鈴木さんから勇希先輩の良さなんて聞いたとしても、いくら俺も尊敬している先輩であろうがきっと俺の腹に黒い感情が沸き上がるだけだし、じゃあ俺も勇希先輩のようになろうとは思わない。
余裕ないな俺。
ちょっと強引が過ぎた。
「…前にも言ったけど、」
「?」
「俺、勇希先輩とは違うけど。彼女には優しくするし大切にするから」
“それだけは忘れないで”
そう付け加えてせっせと点検を再開する。
やっぱり俺、余裕ないや。
ちらりと振り返ったときに見えた鈴木さんの赤く染まった耳は、俺のせいであってほしいと思った。