家族と
1 トラウマ
春は、好き。
何もかも、まっさらな感じがして。これからまた、始められるんだって思えるから。
・・・・また、やり直せるって思うから。
桜が散り、みんなが笑顔を浮かべる中、私はひとり教室の中をうろうろしていた。
ここは、都市部で一番偏差値が高いと言われる難関校、私立しずく中学校。
今日は、新学期ということで、春休みが明けてから初めての全校集会をするんだけど、私は、生徒会長として、挨拶をしなければいけなかった。
私の名前は、月峰妃愛(つきみねひめ)
今日からここの三年生。
この学園の生徒会長を務めている。
私は今三年生で、二年生の終わりに推薦をもらって見事生徒会長になることができたんだ。
生徒会長になるのは私の夢だったからすごく嬉しくて。その夢を叶えるために一年生の頃から生徒会に入ってきた。
その願いが成就したんだ。
それで!生徒会長の最初の仕事は、さっきも言った通り、春休み明け初めての全校集会での挨拶をすること。
二週間程度学校に行き、クラスにも慣れて徐々にグループが固まってきた五月の初め頃に、全校集会をすることが決められているんだ。
私は、その原稿を無くしてしまった。
教室の時計を見ると、全校集会が始まる三十分前。練習もしたいのに全然時間が足りないよ!
机の中身を全部出して探したり、教科書に挟まっていないか念入りにチェックしたにもかかわらず、原稿が書かれた紙が見つからない。
どうしよう、どうしよう・・・・?
今、この場で考えるしかないなと思い、教室に置かれている裏紙を手に取るも、ペンポーチを持っていないことに気づく。
今日は、挨拶をするだけでいいからいらないだろうと思っていたのだ。
・・・ミスだ。
もう、どうしようもない。
今からでも頭の中でいちおう何を話すかまとめておかなくちゃ・・・・!
私は焦燥感にかられながらも必死で文章を頭の中で組み立てる。
「ねぇ、なにやってんの?」
ふいに、声がかけられた。
見ると、扉の近くに人影がある。
そしてゆっくりこっちに近づいてきた。
・・・ぁ・・・きれい・・・
思わず心の中でつぶやく。
きれいに整った顔。
スッキリとしたフェイスラインに深い色のひとみ。
彼は、クラスメートであり、生徒会副会長であり・・・・学校で一番人気の男子、川田紫翠(かわたしすい)さんだった。
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