The previous night of the world revolution5~R.D.~
「本日は、お招き頂き光栄です。『天の光教』教祖、ルチカ・ブランシェットと申します」

事前にルレイアから渡された音声データを聞いていたから、教祖がどんな人柄をしているのかは、ある程度予測していた。

しかし、実際に目にするのは初めてだ。

その女性は、いかにも物腰柔らかそうで、穏やかで、何処にでもいる優しそうな母親、という印象だった。

とても、新興宗教の教祖をやっているようには見えない。

むしろ、この優しげな雰囲気が、信者の目を惑わすのだろうか?

「我々は帝国騎士団だ。秘匿義務がある故、名前は明かせないが…」

「理解しています。結構ですよ。帝国騎士団の方と直接お話が出来る機会に預かれるなんて、なんと幸運なことでしょう。これも、神の思し召しでしょうか」

彼女は、目を伏せて両手を合わせ、神に祈った。

…俺は宗教なんてやらないから、いまいち神に祈るという行為に共感出来ないが。

彼女らのような人にとっては、大きな意味を持つことなのかもしれない。

「どうぞ、中に」

「はい。失礼致します」

教祖は涼しい顔だったが、教祖の側近二人は、明らかにこちらに敵意の眼差しを向けていた。

彼らにとってここは、敵の巣窟。

警戒しないルチカ・ブランシェットがおかしいのだ。

用意した椅子に優雅に腰かけたルチカ教祖は、テーブルについた面々を見渡し。

「…本日は、アルティシア女王陛下はいらっしゃらないのですか」

涼やかな声で、そう尋ねた。

「アルティシア様は同席されない。我々だけだ」

「…そうですか」

明らかに、落胆した声音だった。

「是非、女王陛下にも聞いて欲しかった。神の教えを賜れば、女王陛下もお考えを変えられるかもしれなかったのに…」

「…」

…それを恐れたから、アルティシア様は呼ばなかったんだよ。

「…でも、仕方ありませんね。では、あなた方の口から、今日の会談について女王陛下にお伝えください」

「あぁ…。そのつもりだ」

…さて。

向こうから問いかけるのを待つべきか、こちらから尋ねるべきか。

口を開くにも、慎重にならなければならないことは分かっているが…。

それなのに、オルタンスは何の躊躇いもなく、自分から口を開いた。

「『天の光教』の目的は何だ?」

…おい。

お前、質問がストレート過ぎるぞ。

話術も糞もあったもんじゃない。もう少し遠回しに聞けば良いものを。

出会い頭に、「貴様ら何を企んでる?」はないだろ。

しかし、ルチカ教祖はやはり、涼しい顔。

「目的、とは?」

「何か目的があってのことだろう?連日に及ぶデモ行為は。今は黙認しているが、これ以上のデモ行為は罪に問わざるを得ない」

オルタンスは淡々と言っているが、俺達隊長連はヒヤヒヤものだった。

お前、いくらなんでも脅迫が過ぎるぞ。

脅してどうするんだ。ルレイアかお前は。ルレイア式尋問術か。

捕まりたくなければ、大人しくしてろ、って言ってるようなもんじゃないか。

『天の光教』にとっては、屈辱以外の何物でもない。

実際、教祖の側近達は眉間に皺を寄せ、今にも怒鳴りつけかねない様子だった。

おいおい。

こんなところで乱闘騒ぎは、勘弁してくれよ。

交渉決裂じゃないか。

「私達は、デモが目的なのではありません。このデモによって、神の教えを世間に広めたいのです」

「宗教勧誘がしたいなら、他の方法にしてくれ。娯楽施設や高級店を占拠されたら、ただでさえ悪化しているルティス帝国経済が、更に悪くなる」

さっきから…逐一、容赦なさ過ぎるオルタンスである。
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