The previous night of the world revolution5~R.D.~
…今日は、随分早いじゃないか。

別に来ないでくれて良いんだぞ。

「あれ?ルレイア師匠は?」

「…まだ来てねーよ」

昨夜は『お仕事』の一環で、有閑マダム達を三人まとめて、遅くまでお相手したそうで。

ちょっと遅れて行きまーす、って今朝メール入ってた。

「そうなんですか。じゃ、ちょっと待たせてくださいね」

おい、何でここで待つんだ。

よそで待てよ。

いや、それより。

「…今日は随分早いじゃないか。どういう風の吹きまわしだ?」

何か企んでいるんじゃないか、と勘繰ってしまう。

わざと嫌みったらしく言ってやったのに、ルーチェスは素知らぬ顔。

「あぁ、僕今日お休みなんですよ」

「…休み…?」

そういえば、今日は土曜日だが。

「はい。普段は毎日のように授業があって」

「お前…学校行ってるのか?」

「いいえ。王宮に家庭教師が来るんです。帝王学は勿論、外国語や古文学、礼儀作法だのバイオリンだの生け花だの…。うんざりですよ」

「…」

…そういえば、ルレイアも昔、同じようなこと言ってたな。

貴族のルレイアでもそうだったんだから、王族ともなれば、もっと大変なんだろうな。

これが、ノブレス・オブリージュって奴か…。

…そう思えば、こいつも結構苦労してんだな。

おい待て。俺は絆されないぞ。

王族なんだから、そのくらい当然だろ。

「でも、今日は久々のお休みなので、朝から抜け出してきました」

「…」

「バレたら怒られるんですけどね~」

…ふーん。

まぁ、俺には関係ないけど…。

じー、とルーチェスを見つめていると。

奴は、何を勘違いしたか。

「…?見惚れました?」

「ちげーよ馬鹿」

何だ、その気持ち悪い誤解は。

「前から聞こうと思ってたがな、お前」

「はい」

「ルレイアに取り入って、どうするつもりなんだよ?お前は皇太子なんだろ。次期国王なんだろ?」

「そうですね」

「次期国王がマフィアと関わってるなんてバレたら、ただじゃ済まないだろ」

「そのときは、僕が責任を取って、王位継承権を放棄すれば良いだけの話です」

「…」

…お前。

そんなにあっさり言えるのか?

「僕は元々、国王になんかなりたくありませんし」

「…」

「…意外でした?」

「…責任を負いたくないからか?」

「…」

ルーチェスは少し黙って、そして、真剣な眼差しで俺を見た。

「…何で僕がルレイア師匠に近づくんだって、あなたは思ってるんでしょうね」

「…あぁ」

「前に、純粋にルレイア師匠に憧れたからだと、僕は言いました。それは事実です。一番の理由はそれです。でも、理由はそれだけじゃない」

…何?

「それだけじゃないって…。じゃあ、他に何の理由が…」

「…強いて言うなら、贖罪の為…でしょうか」

贖罪?

「あなたも知ってるでしょう?ルレイア・ティシェリーが、かつてルシファー・ルド・ウィスタリアだったことを」

「…!」

知っている。

当然だ。俺が最初に会ったのは、ルレイアじゃなくてルシファーだったのだから。

でも、その名前は、もう…。
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