The previous night of the world revolution5~R.D.~
「僕の姉が、腹違いの兄が、下らないことをして、下らない面子とプライドを守る為に、若き帝国騎士団隊長が人身御供として、生け贄にされた」

「…」

「信じられます?これが『正義』の帝国騎士団のやり方なんですよ。これがルティス帝国の『正義』なんですよ。そんなものを正しいと呼ばなければならないのなら、僕はそんな場所にはいられない」

…この男。

王族の癖に…そんなことを考えて。

「僕はずっと探していました。あの事件のせいで、人生を破滅させられたに違いないウィスタリア卿の行方を。もし生きているのなら、僕は自分の持てる権力の全てを以て、彼を救いたいと思った」

「…」

「ルレイア師匠のことを知ったのは、そういう経緯です。彼は地獄に突き落とされました。でも、その地獄で花を咲かせていた。黒く、闇深く、誇り高い復讐の花を。願わくば、僕もそんな存在でありたい。地獄に堕ちたのなら、その地獄で自分の居場所を見つけられるような…そんな存在に」

ルーチェスは、自分の手のひらを見つめた。

「僕は望まずとも、栄光を得られる立場です。寝ていようが遊んでいようが、いつかは、誰もが欲してやまない権力を手に入れられる。でも、自分で何の努力もせず得た立場に、一体何の価値があると思いますか?」

「…それは…」

「何もないですよね。地獄の底で、自分の力で自分の居場所を手に入れた彼とは大違い。僕の咲かせる花は、所詮虚栄以外の何物でもない」

「…」

「僕はそんな自分が、嫌で堪らない。その虚栄心にまみれて、自分に忠誠を誓った未来ある騎士を捨て、下らない虚栄心だけを守った姉が許せない。でもそれ以上に、このままじゃ自分も、同じような人間になってしまうかもしれない。それが許せないんです」

…そんな風に、思っているのなら。

お前はきっと、姉のような虚栄の王にはならないよ。

そう言ってやりたかった。

でも、言えなかった。

ルーチェスはルーチェスなりの、覚悟を持って決めたことなのだろうから。

「僕はウィスタリア卿に謝りたい。僕にもっと力があれば、僕は彼を救ってあげられた。姉の横っ面をひっぱたいて、無理矢理でもウィスタリア卿が犠牲になるのを止められた…。ずっと後悔していたんです」

…気持ちは、嬉しいが。

多分、それは無理だ。

そもそもルーチェスは、当時、事の次第を耳にすることすら出来ない立場だったはず。

いくら口を挟もうと、聞き入れられることはなかっただろう。

それなのに、こいつは、自分の責任だと思い込んで…。

「でも僕は謝れません。今更謝ったところで、彼が救われる訳じゃない。むしろ僕が謝れば、地獄の底で生きていくと決めたあの人を、侮辱することになってしまう」

「…ルレイアは、謝罪なんて求めちゃいないよ」

「分かってます。だから謝れないんです。僕は知りたい。見届けたい。僕が生まれながらに持っている、権力というものが牙を剥いたとき、犠牲になった人間の末路を。ルレイア・ティシェリーの生き様を」

ルレイアの…。

…生き様、か。

それは…俺も見届けたいな。

出来れば、ルレイアの一番近くで。

「…それにほら、僕、こんな性格じゃないですか?」

「あ?」

真剣な顔が一転。

けろっとして、そんなことを言い出した。
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