The previous night of the world revolution5~R.D.~
もう疑う余地もなく、完全にお見合いだな。これは。

何を答えるべきなのか。

本当のことを言うべきか、それとも彼女に合わせて、猫を被っておくか。

「そうですね…読書ですかね」

やんわり包んでおいた。

嘘はついてない。

読書と言っても、読んでるのは大抵エロ本だが。

「まぁ、読書ですか。素敵な趣味ですわ」

エロ本だけどね。

「私も、本は読みますのよ。特に好きなのは『ルティス帝国英雄伝』ですの」

定番過ぎて、面白味も糞もない。

子供に好きな絵本を尋ねて、桃太郎と答えるのと同じくらい面白味がない。

「あぁ…。定番ですよね」

「あの主人公、とても魅力的ですわよね。国の為に立ち上がり、困難に立ち向かい…。いかなるときでも希望を失わず、何度傷ついても諦めず、光に向かって進む…。本当に、英雄と呼ぶに相応しい方ですわ」

「…」

「…?どうなさいました?」

「…それって、本当に正しいと思います?」

「え?」

『ルティス帝国英雄伝』。

この国で、この本を知らない者はいないだろうってくらい、有名な本だ。

僕も、勿論読んだことがある。

ルティス語だけでなく、色んな国の言語で読んだ。

しかし、何度読んでも僕は。

あの物語を、綺麗事としか思えないのだ。

僕がひねくれているのだろうか?

「傷ついて転んで、立ち上がる者だけが尊い訳じゃない。光の中で生きている者だけに価値がある訳じゃない。傷ついて立ち上がれずに、絶望して、闇の中でもがいて、そこに居場所を見つける…。そんな生き方をしては、いけませんか?」

「…それは…」

「僕、あの本好きじゃないんです。『正しい生き方』を押し付けられてるみたいで…」

もっと、自由に生きて良いじゃないか。

闇の中で生きてたって良いじゃないか。

光の方に向かうことだけが、正しい人間の生き方ではない。

そりゃあ英雄は確かに尊いけども。

英雄じゃなくたって、誇り高い生き方をしている者はいくらでもいる。

闇と光は紙一重。

同じ人間でも、何か一つ違えば、どちらに落ちてもおかしくはない。

この英雄は、ただ偶然光の方に落ちただけ。

そしてきっと、ほんの一つの偶然で、闇に落ちる者もいる。

それだけの話だ。

「…殿下は、とても思慮深いお方なんですね。そんな考え方、私はしたことがありませんでした」

「…そうですか」

生まれたときから綺麗なものばかり見ていたら、そんなことは考えもしないのだろう。
< 425 / 627 >

この作品をシェア

pagetop