The previous night of the world revolution5~R.D.~
その夜。

俺は、抜き打ちで『Fraulein』を訪れた。

すると、案の定。

「…」

あー、いるいる。

いかにも「私は夜の繁華街を物色しているだけの、健全な人間です」みたいな顔をしやがって。

俺のこの顔を見ろ。真面目そのものじゃないか。

少しは俺を見習ってくれ。

私服を着て、何気ない風を装ってはいるものの。

明らかに、ちらちらと『Fraulein』を盗み見ている。

一人だけではない。

六人ほどの怪しげな男女が、付近をうろついている。

成程、怪しいことこの上ない。

じゃ、取り締まらせてもらうとするか。

「…ちょっと、あなた」

俺は、『Fraulein』付近をうろついていた男の一人に声をかけた。

代表でお前だ。

「…何か?」

さすがに訓練を受けた諜報員。

声をかけられたくらいでは、狼狽えなかった。

「この辺で、何処かおすすめの店はありませんか?」

俺は、にこやかにそう尋ねた。

見ろ。この爽やかな笑顔。

誰もが惚れ惚れと、

「さぁ。知りませんけど」

…イラッとした。

そう答えろと言われているのかもしれないが、もうちょっと愛想ってもんがあるだろ。

俺を見習え。俺を。

「そうですか?俺、ここ初めてなんですよ。良かったら色々教え…」

「悪いですけど、こっちも急いでるんで。他を当たってください」

監視任務を邪魔されて、頭に来たのか。

明らかにイライラした口調でそう言われ、俺の仏のような広い懐が、一瞬で臨界突破した。

「…しらばっくれてんじゃないですよ」

「は?」

俺は監視人の胸ぐらを掴み、一瞬で横路地に引き摺った。

壁にガツンと背中を押し付け、俺はマフィアの殺気を滲ませた。

「お前ふざけんなよ。ここ最近、うちの店を荒らしてくれてるそうじゃないですか」

「な、何を…」

「しらばっくれんなって言ったでしょう?数人がかりで、うちの店の周りを連日うろうろうろうろ…」

「…!」

バレてないとでも思ったか?

「営業妨害なんですけど。今なら迷惑料取らないであげますから、とっととお仲間連れて、帰ってくれませんかね」

「な、なんのことを…」

…あぁ、もう本格的にぶちギレた。

この期に及んで、俺を相手にしらばっくれようとは。

良い度胸してるじゃないか。なぁ?
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