The previous night of the world revolution5~R.D.~
僕はその夜も、『Fraulein』に行った。

来るなと言われたら行きたくなる。

会いたくないと言われたら会いたくなる。

そんな難儀な性格なもので。

「こんばん…は…」

部屋に入ってきたセカイさんは、僕の顔を見るなり、身体を硬直させた。

「こんばんは。セカイさん」

「…ルーチェス君…何で…来たの」

「あなたに会いたかったからです」

「…」

「あなたに会いたいから、会いに来ました」

それ以外、僕がここに来る理由なんてない。

セカイさんと会って、話がしたかった。

それと。

「懲りずに、プロポーズしに来ました」

僕は、用意してきた薔薇の花束を差し出した。

今時プロポーズに薔薇の花束って、なんか古臭い気もするが。

案外、こういう古風なプロポーズに憧れる女性は多いのかな、と思って。

これで駄目だったら、また別のプレゼントにしよう。

「僕と結婚してくれませんか。セカイさん」

「…ルーチェス君…」

「僕と幸せにな、あぁ…僕を幸せにして下さい」

「…そこは、僕が幸せにします、じゃないの?」

世間一般ではそうかもしれない。

だが。

「僕は、あなたを幸せにします、とは言えません。そんな保証は出来ませんから」

とはいえ、幸せにする…その努力はする。

可能な限りな。

「でもあなたと結婚したら、僕は確実に幸せになれるので。だから僕を幸せにして下さい」

「…変なプロポーズ」

セカイさんは、ふふ、と笑った。

「お気に召しましたか?」

「うん。でも…君とは結婚出来ないの」

「…」

結婚したくないの、じゃない。

結婚出来ないの、と言うからには。

何かしらの事情があると見た。

「君とは結婚出来ないんだよ…ごめんね」

「僕が好きじゃないからですか?」

「ううん…。ルーチェス君のことは好き…。本当に、大好きなんだよ」

好きなのに、結婚は出来ない。

その理由は一体何なのか。

考えられるとしたら…。

「…実は、既に他の誰かと結婚してる、とか?」

「ううん…。誰とも結婚はしてないよ」

「なら…実はニューハーフです、とか?」

「…ルーチェス君って、凄い発想するんだね」

違うのか。ごめんなさい。

別にニューハーフでも良いけども。

仮にセカイさんが男だったとしても、アリだ。

「それも違うとなると…何でしょう。凄く気になりますね」

「…」

「まぁ、何でも良いです。今日が駄目なら、また明日来ます」

「…」

「明日が駄目なら、明後日にまた来ます。一週間でも一年でも十年でも百年でも、あなたにイエスと言ってもらえるまで、あなたに会いに来ます」

「…その前に、お店辞めちゃうよ」

確かに。

「だったら、探偵でも何でも使って、あなたの居場所を探します。逃がしませんよ、僕」

最早ストーカー。

しかし、構うものか。

ルレイア師匠の弟子ともあろう者が、そんな簡単に諦めてたまるか。

「ルーチェス君は…そんなに…私じゃなきゃ、駄目なの?」

「えぇ、駄目です」

「他に…もっと良い子が…」

「いるかもしれませんね。でも、今僕の前にいるのはあなたです」

世界は広いんだから、もっとよく探せば、もっと好きになる人が現れるのかもしれない。

でも、今僕の目の前にいる好きな人は、セカイさんだけだ。

「だから、何回でもセカイさんにプロポーズします。僕と結婚してください」

「…」

セカイさんは、ぽろり、と涙を溢した。

「…本当…君は…私を困らせるよね…」

ごめんなさい。

「私だって、出来るものなら…ルーチェス君と結婚したいよ。でも駄目なんだよ。無理なんだよ…」

泣きながら。

彼女は、絞り出すような声で言った。
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