結婚不適合なふたりが夫婦になったら――女嫌いパイロットが鉄壁妻に激甘に!?
プロローグ
異様なほど静まり返ったマンションの一室で、横瀬史花は〝妻になる者〟の欄にペン先を落とした。
自分の名前を書くときに、これほど緊張したことがあっただろうか。
大学入試のときも入社試験のときも、ここまで意識した記憶はない。それはきっと、この薄い紙きれが大きな効力を持つのを知っているから。
改めて気持ちを落ち着かせてゆっくり、いつも以上に一辺ずつ丁寧に名前を書いていく。
(私、本当に結婚するんだ……)
婚姻届に署名するそのときを迎えても現実とは思えない。いつか実感するときがくるのかどうか、今はまだあやふやだ。
最後の一文字を書き終え、ふと隣に書かれた名前を見た。
〝夫になる者〟の欄には、少し右肩上がりの楷書で〝津城優成〟とある。強い筆圧で書かれた美しい文字だ。
手書きの文字にはその人の性格が出ると、以前読んだネットのニュースを思い出した。筆圧が強い人はバイタリティーがあり、自分をしっかり持っているタイプだと。
(プレッシャーやストレスを感じているときにもそうなるらしいけど)
この場合はどちらだろう。