結婚不適合なふたりが夫婦になったら――女嫌いパイロットが鉄壁妻に激甘に!?
「いえ、私はもう少し進めてからにしますので」


 肩越しに会釈しながら史花が返すと、ふたりがそそくさと離れていく。


「だから言ったじゃない。横瀬さんは誘っても無駄だから」
「なんであんなに頑ななのかな」
「ちょっとお堅すぎるんだよね。もう少し愛嬌があってもいいと思うんだけど」


 遠慮がちにコソコソする声が史花の耳にも届くが、どれも的を射ているため言い返す言葉もない。堅物な史花にもっとも足りないものは愛嬌である。

(でも私は昔からこんな感じで今さら変われないし……。ここには仕事をしに来てるんだから、とにかく集中しよう)

 史花は子どもの頃から真面目だとよく言われてきた。通知表の所見に書かれるのも決まってそう。計画に沿って物事を進める性質で、先生の言いつけや学校のルールも破ったことがない。

 幼いときに父親を病気で亡くし、母娘ふたりの生活になったため、心配をかけたくない気持ちが無意識に働いていたのかもしれない。仕事で忙しい母に代わって家事をすることも多かったため、遊びの誘いを断り続けているうちに堅物という代名詞までついてしまった。
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