ふたりの透明な記憶の雨

プロローグ

 地獄のような日々を過ごす毎日は、もう散々だった。

 なぜ私だけがひどい目に遭わなければいけないの?
 何で神様は私だけに不幸を与えるの?
 どうしてこんなに――。なんであんなに――。

 だから、『記憶喪失になって、もう一度新しい人生としてやり直したい』と思った。

 今まで生きてきた記憶を失くせば、新しい人生を歩めるのではないかと。
 今まで苦しみ、悲しみ、時には嬉しく、楽しいと感じたこと。すべての記憶を失うことができたら、もう一度、新しい私として生きることができるかもしれない。

 途中は悲しく残酷な物語だと思えば、最期はハッピーエンドに終わらすことができるような、幸せな人生を歩みたい。
 そんな都合の良い、物語のようなことが起こればいいなんて、起こるはずもない奇跡を願っていた。
 ――私が、私を忘れることができたら。

 「わたしは……だれ?」

 透明な世界にいる私に手を差し伸べて救い出してくれるのは、誰ですか。
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