ふたりの透明な記憶の雨
「美雨、本当に分かってないの!?」
「美雨ちゃん、それ恋だよ!!」
この状況はいったいどういうことなのか、説明すると。
二人と勉強会の約束をして、図書館に行った。それで私は、藤間くんとの出来事を説明した。
ばったり出先で会ったけれど、すぐに行ってしまったことが寂しく感じたこと。
まさか恋って言われるだなんて――。
「恋じゃないよ!」
「恋だよ!」
「違う!」
「違わない!」
はぁ、とため息を吐く。二人にいくら否定しても、なかなか折れてくれない。
私は藤間くんに恋愛感情なんてあるわけないのに。それは自分が一番分かっているはず。
「じゃあ、美雨ちゃんは藤間さんのことどう思ってるの?」
「どうって……うーん、仲間意識、って感じかな。同じく記憶喪失になった人に出会えるなんて奇跡だと思うし」
「奇跡かぁ。なんでそれで恋って認めないかなぁ?」
雪花ちゃんが、ぷくっと頬を膨らましてそう言う。
確かに、少し藤間くんにドキドキしたことがあるけれど、好きという感情はない。というより、好きという気持ちが分からない。
「私、人を好きになったことがないから、分からないの」
「……恋っていうのは、好きな人のことばかり考えちゃって、ちょっと話せたり手振ったりするだけで、胸がドキドキするの。かっこいいとか、かわいいなって思うんだっ」
確かに、風穂ちゃんが表すその気持ちは『恋する乙女』って感じがする。
胸がドキドキ……私に、当てはまっているかも。
どうしてだろう、恋のことを聞いて、藤間くんの笑顔が思い浮かぶのは。
「……そうなんだね。風穂ちゃんは好きな人がいるの?」
「えっ、ううん、違うの。……えっと、前にね、好きだった人がいたの。だけど転校しちゃって会えなくなっちゃったんだ。だからもう未練とかないよ」
そう言って笑う風穂ちゃんの顔は、何だか遠い彼方を見つめているようで。
その切ない表情が、私の心に突き刺さった。
「これって、恋なのかな」
これは恋なの?
これは好きという気持ちなの?
経験したことない恋愛というのはすごく難しい。まだ分からないことだらけ。
でも少しずつ分かっていけたらいいな、なんて思っている。
「私、藤間くんのこと、好きなのかも」
そう言うと、二人は私に抱きついてきた。
嬉しいという気持ちが丸見えな顔を見ると、何も言えなくなる。
「美雨ちゃん、初恋だよね?」
「うん……」
「私たち、応援するよっ」
私にとって、初恋。
その初恋の相手は藤間くん――。
自分のことだけど、未だに藤間くんのことを好きになってしまったなんて信じられない。
藤間くんはかっこいいし、私よりお似合いな相手がたくさんいる。だから叶わない恋をするのは、正直怖い。
でも大切な友達が応援してくれているんだ。だから頑張らないと、って思える。
「ありがとう……!」
恋をするのなんて初めてで分からないけれど、頑張ろう。
とはいっても、何から始めればいいんだろう。
何だか藤間くんが好きだと気がついてから、藤間くんのことばかり意識してしまう。これが恋なのかな。
改めて思い返してみると、私から話しかけていることも多い気がする。藤間くんとは学校でたまに話すし。それにスマートフォンで連絡もできる――。
……連絡?
忘れていたことに気がついた。私、藤間くんの連絡先知らない。
きっと藤間くんもスマートフォンを持っていると思うけれど、連絡先を聞こうという発想がなかった。
「どうしよ……」
真剣に考えてみた。――そういえば、クラス全員のグループがあったはず。
私はスマートフォンを開いてアプリを開いて探してみた。
「一年四組」と書かれたグループを見つけたので、そこをタップする。
すると、「ハルト」という名前の人がいた。
アイコンや背景は初期設定のまま。私は追加ボタンを押し、メッセージを送った。
『藤間くんですか? 私、綾瀬です! 勝手に追加しちゃってごめんね。よろしくネ』
送ってから見直すと、気がついた。最後の「ネ」が何故か変換でカタカナになってる……!
送信取り消しをしようとしたけれど、手を止めた。送信が消されていたら、藤間くんが不思議に思うかもしれない。
変な文章を送っているわけでもないし、このままでいいか、と思った。
――はぁ、最初からミスしちゃった。
気分が落ち込んでいるとき、ポコポコっと通知音がした。
『藤間です。綾瀬、追加ありがとう。俺も連絡交換したいなって思ってたんだ』
藤間くんからの予想外の返信に、思わず「えっ!?」と声を発してしまう。
それに続いてまた返信が来た。
『ていうか、なんでネだけカタカナなの笑』
――そこは触れないでほしかったのに……!
恥ずかしさと嬉しさを抱えながら、私はスマートフォンをぎゅっと抱きしめた。
あぁ。好きな人からの返信ってこんなにも嬉しいんだ。こんなに胸があたたかくなるんだ。
恋ってすごく……楽しい。
「美雨ちゃん、それ恋だよ!!」
この状況はいったいどういうことなのか、説明すると。
二人と勉強会の約束をして、図書館に行った。それで私は、藤間くんとの出来事を説明した。
ばったり出先で会ったけれど、すぐに行ってしまったことが寂しく感じたこと。
まさか恋って言われるだなんて――。
「恋じゃないよ!」
「恋だよ!」
「違う!」
「違わない!」
はぁ、とため息を吐く。二人にいくら否定しても、なかなか折れてくれない。
私は藤間くんに恋愛感情なんてあるわけないのに。それは自分が一番分かっているはず。
「じゃあ、美雨ちゃんは藤間さんのことどう思ってるの?」
「どうって……うーん、仲間意識、って感じかな。同じく記憶喪失になった人に出会えるなんて奇跡だと思うし」
「奇跡かぁ。なんでそれで恋って認めないかなぁ?」
雪花ちゃんが、ぷくっと頬を膨らましてそう言う。
確かに、少し藤間くんにドキドキしたことがあるけれど、好きという感情はない。というより、好きという気持ちが分からない。
「私、人を好きになったことがないから、分からないの」
「……恋っていうのは、好きな人のことばかり考えちゃって、ちょっと話せたり手振ったりするだけで、胸がドキドキするの。かっこいいとか、かわいいなって思うんだっ」
確かに、風穂ちゃんが表すその気持ちは『恋する乙女』って感じがする。
胸がドキドキ……私に、当てはまっているかも。
どうしてだろう、恋のことを聞いて、藤間くんの笑顔が思い浮かぶのは。
「……そうなんだね。風穂ちゃんは好きな人がいるの?」
「えっ、ううん、違うの。……えっと、前にね、好きだった人がいたの。だけど転校しちゃって会えなくなっちゃったんだ。だからもう未練とかないよ」
そう言って笑う風穂ちゃんの顔は、何だか遠い彼方を見つめているようで。
その切ない表情が、私の心に突き刺さった。
「これって、恋なのかな」
これは恋なの?
これは好きという気持ちなの?
経験したことない恋愛というのはすごく難しい。まだ分からないことだらけ。
でも少しずつ分かっていけたらいいな、なんて思っている。
「私、藤間くんのこと、好きなのかも」
そう言うと、二人は私に抱きついてきた。
嬉しいという気持ちが丸見えな顔を見ると、何も言えなくなる。
「美雨ちゃん、初恋だよね?」
「うん……」
「私たち、応援するよっ」
私にとって、初恋。
その初恋の相手は藤間くん――。
自分のことだけど、未だに藤間くんのことを好きになってしまったなんて信じられない。
藤間くんはかっこいいし、私よりお似合いな相手がたくさんいる。だから叶わない恋をするのは、正直怖い。
でも大切な友達が応援してくれているんだ。だから頑張らないと、って思える。
「ありがとう……!」
恋をするのなんて初めてで分からないけれど、頑張ろう。
とはいっても、何から始めればいいんだろう。
何だか藤間くんが好きだと気がついてから、藤間くんのことばかり意識してしまう。これが恋なのかな。
改めて思い返してみると、私から話しかけていることも多い気がする。藤間くんとは学校でたまに話すし。それにスマートフォンで連絡もできる――。
……連絡?
忘れていたことに気がついた。私、藤間くんの連絡先知らない。
きっと藤間くんもスマートフォンを持っていると思うけれど、連絡先を聞こうという発想がなかった。
「どうしよ……」
真剣に考えてみた。――そういえば、クラス全員のグループがあったはず。
私はスマートフォンを開いてアプリを開いて探してみた。
「一年四組」と書かれたグループを見つけたので、そこをタップする。
すると、「ハルト」という名前の人がいた。
アイコンや背景は初期設定のまま。私は追加ボタンを押し、メッセージを送った。
『藤間くんですか? 私、綾瀬です! 勝手に追加しちゃってごめんね。よろしくネ』
送ってから見直すと、気がついた。最後の「ネ」が何故か変換でカタカナになってる……!
送信取り消しをしようとしたけれど、手を止めた。送信が消されていたら、藤間くんが不思議に思うかもしれない。
変な文章を送っているわけでもないし、このままでいいか、と思った。
――はぁ、最初からミスしちゃった。
気分が落ち込んでいるとき、ポコポコっと通知音がした。
『藤間です。綾瀬、追加ありがとう。俺も連絡交換したいなって思ってたんだ』
藤間くんからの予想外の返信に、思わず「えっ!?」と声を発してしまう。
それに続いてまた返信が来た。
『ていうか、なんでネだけカタカナなの笑』
――そこは触れないでほしかったのに……!
恥ずかしさと嬉しさを抱えながら、私はスマートフォンをぎゅっと抱きしめた。
あぁ。好きな人からの返信ってこんなにも嬉しいんだ。こんなに胸があたたかくなるんだ。
恋ってすごく……楽しい。