あなたが運命の番ですか?
 その翌日の放課後、今日は私が水やりの当番だ。
 私は保健室で川田先生から部室の鍵を受け取り、部室にあるジョウロを持ち出し、花壇のそばにある水道の水を中に入れる。

 植物を育てるなんて、小学校の朝顔以来だなぁ。
 私は水やりをしながら、そんなことを考えていた。

「――ん?あれ?」

 すると、背後から誰かが近づいてくる気配と男性の声がした。
 振り返ると、ワックスを付けた茶髪の柄の悪そうなアルファ男子が立っていた。
 宝月学園は進学校であるためか基本的に校則が緩く、頭髪服装に関して特に決まりはない。そのため、茶髪でも何も問題はないし、私のクラスにも茶色に染めている子は何人かいる。
 しかし、おそらく190cm前後はあるであろう高身長と、両耳にピアスをジャラジャラと付けた威圧感のあるアルファ男子の風貌に、私は思わず飛び退いた。

「あれー?今日、橘じゃないの?」
 アルファ男子は気怠そうに襟足を()く。
 私は目の前のアルファ男子に気圧(けお)されて、頭が真っ白になっていた。

 私が固まっていると、アルファ男子は私に対して舐め回すような視線を向ける。
「1年生?可愛いね」
 アルファ男子はニヤニヤと笑いながら私に近寄ってくる。
 えっ?何?
 私は恐怖のあまり後退(あとずさ)る。

「おい!水瀬(みなせ)!」

 すると、私たちの間に割って入るように、誰かが駆け寄ってきた。
 それは、園芸部の2年生・橘先輩だった。

「お前、何やってんだよ」
 橘先輩は呆れたような表情を浮かべている。

「おい、橘ぁ、俺何回もメッセージ送ったのに無視しただろ。電話にも出ねぇしよぉ。木曜はお前が水やりやってるから、直接声掛けようと思って来たらいねぇし」
 水瀬と呼ばれていたアルファ男子は、何やら苛立った様子で話す。
 お互いにタメ口で話しているので、この人も橘先輩と同じ2年生なのだろうか。

「あぁ、ごめんごめん。スマホ、家に忘れて来ちゃったんだよね。水やりは、学年が上がったから当番の曜日が変わったんだよ。あと――」
 橘先輩はチラッと私のほうを見る。

「その子は()()()()()じゃないからダメだよ。――っていうか、僕以外の園芸部員はダメだから」

 橘先輩は何か釘を刺すような言い方をする。
 私はその様子を見て、橘先輩が怒っているように感じた。

 すると、水瀬先輩は「ケチ臭ぇ奴だな」と鼻で笑う。
「じゃあ、お前は良いんだよな?」
 水瀬先輩は橘先輩に詰め寄る。
「……あぁ」
 橘先輩は小さく頷いた。

「さっきはごめんね、春川さん。じゃあ、またね」
 橘先輩は困ったような笑みを浮かべると、水瀬先輩に肩を抱かれてその場から立ち去って行った。
 私は2人の背中を見送りながら、「あの2人は()()()()()()なのだろうか」と考えていた。
< 10 / 195 >

この作品をシェア

pagetop