あなたが運命の番ですか?

スキャンダル②

 始業式のために学校へ登校すると、クラスメイトたちはヒソヒソと星宮さんと橘先輩の話をしていた。

「ねぇ、見たぁ?星宮さんの記事」
「見た見た。しかも、相手って2年の橘先輩でしょ?」
「橘先輩って、あれだろ?ほら、例の――」
「そうそう。金渡せば誰でもヤらせてくれるって、有名なオメガの男」
「あぁ、ガラの悪そうなアルファと一緒に歩いてるところ、俺も見たことあるわー」
「星宮さんもさぁ、何でよりにもよって橘先輩を選んだんだろ?あんな人のどこが良いのー?」
「きっと橘先輩に騙されてるんだって。だって、あの人って()()()じゃん」
「うわぁ、有り得る……」
「星宮さん、可哀そー」

 教室の至る所から聞こえてくる陰口や噂話に、私は胸がズキズキと痛む。

 8月の末、クラスのグループチャットに、とあるURLが貼られた。
 それは、星宮さんのスキャンダルが載ったネット記事へのリンクだった。
 
「CMにも出演。人気モデル・星宮真琴がオメガの美少年と連日お家デート」
 私はしばらくの間、そのネット記事の見出しの意味が理解できなかった。
 ネット記事には隠し撮りしたであろう写真がいくつも掲載されており、そこには星宮さんと顔にモザイクの掛かったオメガ男性らしき人物が写っていた。そして、そのオメガ男性の正体が橘先輩であることは、私にはすぐに分かった。
 
 私は理解が追い付かず、しばらくの間思考が止まってしまった。
 星宮さんのスキャンダル、しかも相手は橘先輩――。
 あの2人がそんな関係――、いや、そもそも関わりがあったことにすら私は動揺している。

 記事が出た直後、星宮さんの所属する芸能事務所から声明が発表された。
 そこには、「2人は正式な婚約者ではない」「プライベートは本人に任せている」等の記載があった。

 SNSでも星宮さんの名前がトレンド入りする事態となった。
 しかし、その書き込みのほとんどが「アルファ女性とオメガ男性の組み合わせを珍しがる物」と「未成年の色恋を記事にする週刊誌への批判」であり、星宮さんへの批判はほぼ無かった。
 今だってそうだ。
 あの記事に関して噂しているクラスメイトの中に、星宮さんを非難する人はいない。
 しかし、相手の橘先輩についてあることないこと言う人は大勢いる。いや、むしろ橘先輩の悪口ばかりが聞こえてきて、みんな星宮さんの名前をどんどん口にしなくなっている気がする。

 青山会長との一件で、橘先輩が過去に問題行為をしていたことは、私も察していた。
 だけど、これほど悪い意味で有名な人だとは思わなかった。
 橘先輩の陰口が聞こえてくるたびに、私は胸が締め付けられる。そして、その陰口の中から聞こえてくる「オメガへの偏見」も、私の心を抉った。

「ヤな感じだよねぇ」
 私が(うつむ)いて机と睨めっこをしていると、鏑木さんがやって来た。
「ほんと、みんな噂話が好きだよね」
 鏑木さんはため息を吐く。
「そう、だね……」
 私はそれしか返せなかった。

 しばらくの間沈黙が流れた後、鏑木さんは「5月にさ」と話を切り出す。
「真琴の様子が、ちょっとおかしかったことがあるんだよね。なんか、ずっと上の空っていうのかな?その時、『何かあったの?』って聞いたんだけど、真琴は『何も聞かないで』って言って……。あの時、無理にでも話を聞けば良かったのかなって……」
 鏑木さんの声は、徐々に小さくなっていく。
 
「あの2人がただのカップルだったら、別にいいんだけどさ。なんか、そういうのじゃないような気がして――。ダメだよね、部外者がこんな憶測で話しちゃ。私も、みんなのこと言えないなぁ……」
 鏑木さんは悲しそうな、悔しそうな顔で唇を噛みしめた。
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