あなたが運命の番ですか?

お見合い

 4月末の日曜日、私たち家族3人は料亭の個室で、私のお見合い相手とその家族を待っていた。

 お見合い相手は、「コスモバーガー」や「ミルキーウェイレストラン」などの飲食チェーン店を束ねている大企業・前園(まえぞの)グループの社長の息子・前園優一郎(ゆういちろう)だ。
 前園先輩は私と同じ宝月学園に通っており、アルファ特進クラスの2年生らしい。

 私のお父さんはコスモバーガーの商品開発に携わっており、少し前に社内の食事会で前園社長と久しぶりに話す機会があったそうだ。そこで互いの子供の話になり、アルファとオメガということで「お見合いはどうか?」と社長のほうから持ち掛けてきたという。
 その後、お父さんはとりあえずお母さんに相談したらしい。
 すると、お母さんは前園先輩がどういった人物なのかチェックするために、事前に私の両親と前園社長、前園先輩の4人で会食をしたそうだ。
 そう言えば、先週末、両親が2人だけで出掛けた日があった。

「最初はちょっと頼りなさそうだなって思ったんだけど、受け答えはしっかりしてるし、将来のこともきちんと考えてて、真面目で感じの良さそうな子だったわ。前園社長もとても優しくて面倒見の良い方で、そんな人の息子さんだから、きっと寿々ちゃんのことも大事にしてくれると思うの」

 お見合いの話をしている時、お母さんは上機嫌で、どこか安堵している様子だった。

「良い人と『(つがい)』になることが、寿々ちゃんの将来にとって1番良い選択肢なのよ」

 番。――それはアルファとオメガの間でのみ成立する「特殊な関係性」のことだ。
 アルファがオメガのうなじを噛むことによって、2人は「番」となれる。
 番になると、そのオメガの発情フェロモンに対して、番以外のアルファが反応しなくなる。
 番は1度成立してしまうと、どちらか一方が死ぬまで解消されない。そして、オメガにとって番は生涯に1人だけだが、アルファは何人ものオメガと番になれる。

 さらに、オメガ男性に関しては、番ができると身体に「大きな変化」が生まれる。それは、「妊娠と出産が可能になる」というものだ。
 ただし、オメガ男性が妊娠出産できる相手は、「番限定」である。逆に言えば、番がいない状態あるいは番以外との性行為では妊娠ができない、ということだ。
 
 ちなみに、私を含めた番のいないオメガが首に付けている「オメガチョーカー」は、望まぬ番成立を防ぐため、オメガの合意なしでうなじを噛めないようにするためのものだ。
 チョーカーの解除方法は本人の指紋認証で、私はお風呂の時しか外さない。

 このお見合いは単なる結婚だけでなく、「お互いの番になる」という目的も含まれている。

 ベータの人々からすれば、「今どきお見合いなんて珍しい」と思うかもしれない。しかし、オメガが成人する前に、その親が番相手となるアルファを探してお見合いをするというのは、よくあることらしい。
 オメガにとって、資産家のアルファと番になれるということはこの上ない幸福だ。
 お金持ちで権力のあるアルファの元で何不自由ない暮らしが手に入り、おまけにオメガの最大の悩みである「発情フェロモンによってアルファに襲われるかもしれない恐怖」が無くなるのだ。
 そして、アルファにとってもメリットがある。アルファは、番同士のカップルから生まれやすいという研究結果がある。
 社会的に地位の高いアルファは、自分と同じ有能なアルファの跡取りを産んでもらう目的で、オメガと番になるのだ。

 確かにお母さんの言う通り、私の将来を考えるのならば、大企業の社長の息子と番になるのが1番良い選択肢だろう。番を作らずに、オメガである私がまともな仕事に就けるとは到底思えない。
 しかし、私の知らないところで勝手にポンポンと話が決まっていたのは、何だかモヤモヤする。
 お父さんは「寿々が嫌なら断っても良い」と言ってくれたが、あんな上機嫌なお母さんを目の前にして断れるはずがなかった。
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