* Snow gift *
 12月23日、午後6時12分。


「課長のばっきゃるぉぉぉぉいぃぃ!」

「ちょ、ちょっとペース早いわよ、あんた」

「そんなことにゃい!」

 だんっ、とジョッキをテーブルに叩きつける。

 こんな日は呑みでもしないとやってられないというものだ。

 結局朝はじっくりこってりぎとぎとと課長に怒られ、その後も一日中ねちねちとしつこく小言の嵐……。

「だいたいね! あのおっさんカツラ誰にもバレてないと思ってんの?」

「さ、さぁ?」

 小言がイチイチちっちゃいのよ。

 ホチキスで束ねた書類がキチンとそろってないとか、お茶を淹れるときはまず湯飲みをあっためておけだとか、グロス入りのリップは派手すぎだとか。

「奥さんに頭が上がらないからって八つ当たりするなぁ~!」

「大声出さない! もぅっ、そんなに騒ぐならあたし先にかえ──」

 そのときだった。


 ちゃらっちゃちゃっちゃ~ちゃ~ちゃ~


 ユミコのバッグから携帯の着信音。

「ぬ……」

「あ、ケンちゃんからだ! ちょっと席はずすね!!」

 そそくさと店外に出るユミコ。

 昨日アレだけ愚痴ってたくせに、嬉しそうな顔しちゃってさ。

 あ、もどってきた。

「ごめん! ケンちゃんが今すぐ逢って仲直りしたいっていってて」

「まさか、傷心のわたしを置いていく気? 自分は昨日あんなに遅くまで……」

「う……ご、ごめん! でもほら、あんたも女なら、ね? わかるでしょ?」

「わたしにはカレシいないのでわ~かり~ませ~ん」

「アリア・アルタのディナーでどうよ!」

「ムートン付きでね」

「ぐっ……承知しましたお代官様……」

「うむ。ではいってよろしい」

「ははぁ~……って、ほんと、ごめんね?」

 合わせた手の向こうから心底申し訳なさそうな顔をのぞかせるユミコ。

 こんな表情を見せられてまだ文句をいうような友人なんかいない。

「な~にいってんの。ほら、早くいったいった」

 ユミコをぼんやりと見送って、わたしはビールから熱燗に切り替えた。

 女のひとり酒、か。

 あはは……いよいよ底辺にきちゃったなぁ。
 
< 15 / 33 >

この作品をシェア

pagetop