ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜

朔、田舎で浮く


 桃乃の地元。

 山と川に囲まれた、小さな田舎町。

「……お前、なんでそんなに見られてんの?」

 桃乃は、隣を歩く朔をちらりと見た。

「いや、聞きたいのはこっち」

 朔は、道行く人々の視線を感じていた。

 いや、感じるというか、もはや全員がガン見している。

 ——おじいちゃん、おばあちゃん、近所の主婦、小学生まで。

 みんなが「え、何あの人……」と言わんばかりの目を向けてくる。

「なぁ桃乃。俺、なんかヤバいことした?」

「いや、朔さんの存在がヤバい。」

「は?」

「都会では普通かもしれないけど、ここの人たちからしたら『黒髪・高身長・イケメン・タトゥー入り』っていう属性が強すぎるの」

「……なるほど?」

「しかも、あんまり喋らないし、雰囲気が怖いから、たぶんヤ○ザか何かだと思われてる。」

「それは誤解だろ」

「でも、ほら」

 桃乃が顎で示すと、近所の八百屋のおばちゃんがコソコソ話しているのが見えた。

 ——「ねぇ、あの子、都会の悪い男に捕まったんじゃない?」

 ——「あらやだ、借金とかじゃないでしょうね?」

 ——「タトゥー入ってるし、絶対裏の仕事の人よ!」

「俺、今この町で完全に犯罪者扱いされてるな。」

「うん。でも仕方ないよ! 朔さん、田舎適性ゼロだもん!」

「田舎適性ってなんだよ」

 苦笑いする朔の前に、突如、田舎特有の「ある存在」が立ちはだかる。

 「桃乃! その男は誰だ!?」

「……え?」

 振り向くと、桃乃の地元の幼馴染が仁王立ちしていた。

 その手には、なぜか竹ぼうき。

「まさか騙されてるんじゃないだろうな!?」

「えっ!? いやいや、違うって!」

「そのタトゥー!! そいつヤバい奴だろ!!」

「……桃乃、ちょっと待て。なぜ俺が竹ぼうきで制裁を受ける流れなんだ?」

「いや、田舎はこういうの大事だから」

「どんな文化だよ」

 朔はため息をつくと、一歩前に出た。

「悪いが、俺はお前の想像してるようなヤバい奴じゃない」

「うるせぇ! タトゥー入ってる時点でヤバいんだよ!!」

「いや、単なる趣味——」

「趣味でそんなイカつい花のタトゥー入れる奴がいるか!!!」

「いるだろ」

「いねぇよ!!!!」

「…………」

「…………」

「……まぁ、お前が納得するなら、好きにしろよ」

「え?」

「そんなに俺が悪いやつか確かめたいなら、かかってこいよ。」

「は?」

 朔が腕を組み、堂々とした態度を見せる。

 その幼馴染は一瞬たじろいだが——

「……上等だ!!!」

 バッ!!

 竹ぼうきを振りかぶる!!

「ちょ、ちょっと待って!? なんでガチでやる流れになってるの!?」

「大丈夫だ、桃乃」

「大丈夫じゃないよ!!!」

 桃乃の必死の叫びも虚しく——

 田舎の道端で、都会のホストVS竹ぼうきを持った幼馴染の戦いが始まる????

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