ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜
墨さんとホワイトデー大作戦
——3月某日。
桃乃はホストクラブの前でそわそわしていた。
(……いやいやいや、何しに来てんの私!?)
バレンタインに渡したチョコのせいで、完全にホストにガチ恋してるみたいな流れになったあの日。
その後も気まずくて連絡しづらかったのに——
『来月はホワイトデーだな。……期待しとけよ』
とか言われたら、気にするに決まってるじゃん!!
「……でも、期待するのもなんか負けた気がするし……」
などと葛藤していると——
「……お前、また何してんの?」
突然、背後から朔の声がした。
「わっ!? す、墨さん!!」
驚いて振り向くと、朔はクールな表情のままこちらを見下ろしていた。
「……もしかして、俺からのホワイトデー待ってた?」
「ちがっ!!!」
即座に否定するも、朔はニヤリと笑う。
「まぁいいけど、ちょうどいいな」
「えっ?」
「ついてこいよ」
「えっえっ?」
訳も分からないまま、桃乃は朔に連れられて歌舞伎町を歩くことに——。
【ホワイトデーのお返し①:超高級スイーツ】
「ほら」
朔が指差したのは、高級スイーツ専門店。
ショーケースには宝石みたいなケーキがずらり。
「えっ……これ、もしかして……」
「お前がバレンタインにチョコ渡したから、ホワイトデーのお返しな」
「……!!!」
桃乃は感動した。
(やばい……!! これ、めっちゃホストっぽくない!?)
「どれでも好きなの選べよ」
「……!! じ、じゃあ……この……」
震える指で1つのケーキを指差す。
すると——
「……あ、すみません。ここのお会計、あの子持ちです」
「はぁぁぁ!?」
「お前、俺に貢ぐ客なんだろ?」
「違いますぅぅぅ!!!」
全力で否定したが、朔は爆笑していた。
【ホワイトデーのお返し②:高級アクセサリー】
「さっきのは冗談だよ」
「ほんとですか……?」
「まぁな」
(……なんか信用できない)
疑いの目を向けつつ歩いていると、次に朔が向かったのはおしゃれなアクセサリーショップ。
「えっ、まさか……」
「ホワイトデーって、アクセとかも定番らしいな」
「えっ……? えっ!??」
(ホストにこんなことされたら、そりゃ勘違いするって……!!!)
「ほら、どれがいい?」
そう言われ、桃乃は震える手で棚を指差した。
「えっと……じゃあ、これ……」
「ん」
朔は無言でそれを手に取り、会計へ——
……行かずに、桃乃の手にぽんっと乗せた。
「はい、プレゼント」
「え……?」
「お前のおごりな」
「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
(またこの流れぇぇぇ!!!)
店を飛び出しながら、桃乃は叫んだ。
【ホワイトデーのお返し③:とっておきの一言】
「はぁ……はぁ……」
アクセサリーショップから逃げた桃乃は、街角で膝に手をついてゼェゼェ言っていた。
「……お前、体力なさすぎ」
朔が余裕の表情で横に立っている。
「墨さんが……! いちいち私をからかうから……!!」
「別に、からかってねぇけど?」
「大嘘つきぃぃぃ!!!」
「まぁまぁ」
そう言いながら、朔はポケットから何かを取り出した。
「……え?」
「ほら」
手のひらには、小さな包み。
「……これ……」
「ホワイトデーのお返し」
「えっ……?」
「ちゃんとしたやつな」
(え、なにこれ……)
驚いて包みを開けると、中には小さなシンプルなブレスレット。
「……これ……」
「お前、派手なの似合わねぇから、シンプルなのにしといた」
「……っ」
心臓が一気に跳ね上がる。
(……なにこれ……反則じゃん……)
「……で、どうする?」
「……へ?」
「お前、これつけて帰る?」
「え、いや、でもこれ……」
「俺がつけてやろうか?」
「ええええええ!?」
朔が、すっと手を伸ばしてくる。
「ほら、腕出せよ」
「ちょっ……」
「ホワイトデーだしな」
その言葉に、桃乃は観念したようにそっと腕を差し出す。
朔は無言で、それを丁寧につけた。
「……ん、やっぱこっちのほうが似合うな」
「……」
朔の手が離れた瞬間——
桃乃はその場から全力疾走した。
「うわああああああ!!! もう帰る!!! 忘れてください!!!!」
「ははっ、まぁ、大事にしとけよ」
「うあああああ!!! やめろぉぉぉぉ!!!!」
こうして桃乃のホワイトデー大作戦は、大敗北で幕を閉じたのだった——。