【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ
通過試練
桃瀬の状態を調べた石和の手応えは、予想どおりだった。体内領域へ挿入した中指は、きつくしめつけられた。
「理乃ちゃん、そんなにこわがらなくてもだいじょうぶだよ。ほら、リラックスして」
「でも、違和感があって……」
石和は「ごめんね」といって涙目になっている桃瀬の額を、ツンッと小突いた。
「ひぁっ!?」
「理乃ちゃん、どうかな。つづけられそう?」
質問に答える余裕などない桃瀬は、恥ずかしさのあまり「も、もう、いや!」と、石和の腕をふりはらった。デートのあとにベッドインする展開は、恋人同士ならば自然な流れだとわかっていても、なにも経験したことがない桃瀬は、膝がふるえだした。
「理乃ちゃん、こっち向いて」
目を逸らして会話を拒んだ桃瀬は、あわてて身なりを整えると、「わたし、帰ります!」といって、逃げるように部屋を飛びだした。ワンピースのウエストリボンが、ぽつんと床に落ちている。
「ああ、困った。性急すぎて、きらわれてしまったかな」
そうつぶやく石和は、必要なものを片付けながら小さく息を吐いた。桃瀬は、これまでにないタイプの女性である。ひな鳥のような、まるで生まれたばかりの危うさとかわいらしさが見て取れた。動揺する恋人を放っておくことは主義として容認できない石和は、ウエストリボンを返す目的で、彼女の部屋を訪ねた。……ガチャッ。よかった、ドアをあけてもらえた。
「……な、なにか?」
「忘れものをとどけに」
「わざわざすみません……」
桃瀬の表情はおちついているように見えたが、「平気?」と具合を確認すると、数秒ほど沈黙が発生したあと、こくんっと、うなずいた。
「さっきは、こわい思いをさせてごめんね。またこんど、いっしょにがんばってくれるとうれしい。……それとも、ぼくとつきあうのが厭になった?」
「そ、そんなことありません……。石和さんは、なにも悪くありません。全部、わたしのせいなんです……(わたしが臆病だから……)」
「それはちがうよ。あまりじぶんを責めては不可ないよ。……今夜はゆっくり息んで、またあした、お互い元気に働こう」
桃瀬は、ぎゅっと、唇を固く結んだ。やさしくひびく石和の声が、切なくて悲しい。「いっしょにがんばろう」ということばの意味も、正しく理解できなかった。「おやすみ」暗くなった外階段をおりていく石和のうしろ姿を、桃瀬は茫然と見送った。
✦つづく