君を思うと、胸がぎゅっと痛くて
「じゃあ、陽菜。体調は気をつけろよ」

「うん。会長、さゆ。今日はありがと」

陽菜がそのまま家の中に入るのを見送ると私は安心して、改めて奏のことを見て言った。

「奏……。あのね」

「分かってる。どうせまだ家に帰りたくないんだろ?」

「なんで分かるの?」

「さゆのことなんて、お見通しだ。かぁさん、俺ら歩いて二人で家帰るからここまででいい。ありがとう助かった」

そう言うと、奏は私の手を引き車を降りた。
奏のお母さんにお辞儀する。

「さゆ、また、何かあったか? 元気ないな」

「うん……」

しとしと雨が降ってる。
上を見ると空が泣いてるみたい。
だけど、雨の音が私を安心させてもくれる。

『大人になるより前に死ぬのーー』

さっきの言葉が、頭の中でこだましていた。

「なんでもない。でも、まだ今日は帰りたくないの」

「さゆ、おいで……」

奏が手を広げて私を受け入れてくれる。
ギュッと抱きしめて欲しくて、手を伸ばす。
だけど、あと数センチーー届かない。


「出来ないよ。私、奏に甘える資格ない」


「そんな資格、なくていいんだ」


そのあと数センチを奏の方から埋めてくれる。


「何も言わなくていい。俺は何も聞かないから。ただこうして抱きしめてていいか?」

「ーーうん」


温もりが心地好くて。
奏のことが大好きだって思えるのに。
私はずるい。
頭の片隅でアキ先生のこと、考えてる。
< 28 / 91 >

この作品をシェア

pagetop