君を思うと、胸がぎゅっと痛くて
目が覚めると、いつもの”彼”がそこに居た。

「おはよう、僕の初恋さん」

「あ……き……」

「さゆ。ここは、14年後の世界。でも、α‬でもβ世界線でもない、さゆ、君が選んだ世界だよ。俺はあの時、病室にいたオリジナルの彰史。小夏ちゃんから移植を受けて、今の君と俺は生きてる」

「あの子……」

死んだんだ。あの子があんな小さくて可愛い子が。
涙が一筋流れた。
あきが優しく拭ってくれる。

「さゆ、世界は残酷だけど、何一つ正しいものなんてないけど。それでも君を愛してる。愛し続ける約束を守って、いま28歳の医者として、同じ目線で君に向き合えることを幸せに思う」

「わ、私も。あき、愛してる」

手を握って、あの時みたいに頬にキスをしてくれた。
また涙があふれる。

「私の初恋は終わっちゃったけどちゃんと幸せの中で終われたから……あき、私これでよかったんだよね?」

「うん、この世界は脆くて、危うくて、でもいちばん美しい」

「あき……口にもキス、して」

「あぁ、これからは何度でもしてやるよ。おかえり、俺のさゆ」

ぎゅうと抱きしめて、優しくキスしてくれた。

「王子さまの魔法で、目、しっかり覚めた、ふふ」

「お姫さま、おかえり」

「ただいま、私の王子さま」

そこで、病室の扉が開いてはる兄と陽菜と、奏が入ってきた。

「さゆ、混乱するかもしれないね。14年後のみんなだよ」

「さゆ、良かった!! おかえり」

「おかえり、さゆ」

「結婚したんだね」

「あぁ、陽菜は俺の嫁だ」

「そう、良かった……」

「ごめんね、さゆ」

「謝らないで」

「ーーさゆちゃん、奏くんの作った新薬で、君も陽菜も今も生きてる。君の心臓もその痛みも、奏くんの思いは、確かに今も繋がってるんだよ」

「はる兄……」

「ありがとう、陽菜を生かしてくれて」

はる兄が泣いていた。よく分からないけど、とても胸が温かかった。
とても、苦しくて、とてもあたたかな、春。
窓からは桜の花びらが沢山散っていくのが見えた。

「桜、見たいな」

「皆で見に行こう」

あきが車椅子を取りに行ってくれた。

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