Music of Frontier
ともかく、俺はその日、思い出した。

自分には、大事な親友がいたんだってことを。

思い出させてくれたのは、エインリー先生が俺の手に握らせた、小さな紙片だった。

「これね、ルクシー君が君に渡してくれって、言付かったんだよ」

「…」

「お手紙だよ。ルクシー君が書いて、持ってきてくれたんだ。読んであげて」

手のひらの上に乗せられた紙片を、俺は握ることが出来なかった。

紙片は呆気なくひらひらと床に落ちたが、エインリー先生はそれを拾い上げた。

そして、再度…今度は俺の両手に包み込むようにして持たされた。

「読んであげなさい。読まなきゃ駄目だよ。君を大事に思う人がいるんだってことに、目を背けちゃいけない」

「…」

そのときになって、俺はようやく、手のひらの中に何かがあることに気づいた。

のろのろと視線を落とせば、そこには一枚の小さなメモ用紙が握らされていた。

…何なんだろう、これは。

「ルクシー君からの手紙だよ。ルクシー君のこと、覚えてる?」

俺がメモ用紙の存在に気づいたことを察したらしく、エインリー先生がそう教えてくれた。

「…」

…ルクシー…?

俺は頭の中で、その名前を反芻した。

それが誰なのか、はっきりとは思い出すことは出来なかった。

でも…何故か、とても心地良い響きだ。

大事な名前…だったような…。

「お手紙。ちゃんと読んであげて。ほら」

「…」

ルクシーという名前の正体が気になって、俺は手のひらの中の紙片を摘まみ、目の前に持ってきた。

ゆっくりと、ゆったりと。

カタツムリか、って突っ込まれそうなくらいのろのろと。

メモ用紙に書かれた、大きな文字を…一文字ずつ、辿っていった。

最初は、何て書いてあるのか読めなかった。

文字が、何かの絵か記号みたいに見えて…それが何を意味するのか、理解出来なかったのだ。

それでも、俺はゆっくりゆっくりと、その記号を文字に直していった。

そして。







そこに何が書いてあるのか理解したとき、俺は目を覚ました。








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