Music of Frontier
「やぁ、おはよう。気分はどうかな、ルトリア君」
その日、いつものように医者が病室に入ってきた。
俺を担当してくれているこの先生は、エインリー先生と言うのだが。
当時、俺はその名前を知らなかった。
先生が名乗らなかったのではない。俺が覚えていなかっただけだ。
先生の名前どころか、俺はその日が何月何日で、そして今が何時なのかさえ知らなかった。
知る気もなかった。
俺に時間の感覚がないのを知ってか知らずか、当時エインリー先生はいつも俺に会うときは「おはよう」と言っていた。
その日も、朝か昼か夜か覚えてないけど、エインリー先生は「おはよう」と言って、俺の部屋に入ってきた。
しかし。
「…」
相変わらず、俺は何も答えなかった。
ただ黙り込んで、それどころか視線さえ合わせようとしなかった。
何とも無愛想な患者だが、俺にはあのとき、顔を上げて挨拶を返す余裕なんて、全くなかったのだ。
エインリー先生は、黙っている俺を見ても顔色を変えず、いつものように一方的に捲し立てた。
「さっきね、ルクシー君が来てくれてたんだよ。ルクシー君。覚えてる?君の仲良しのお友達」
「…」
「彼ねぇ、よく来てくれるんだよ。ほとんど毎日来てくれる。君のこと心配してるんだよ」
「…」
エインリー先生の声は、耳に届いていた。
でもその言葉は、俺の頭の中に入ってきていなかった。
左耳から入って、右耳から抜けていった。
正直なところ、当時俺の頭の中には、ルクシーはいなかった。
俺の中にいたのは、両親や姉や、エミスキーやラトベル等のクラスメイトや、教官達や、ルームメイトの先輩達だけ。
俺を憎み、傷つけ、見捨てた人のことは、よく覚えていた。
幻覚でも見ているかのように、くっきりと思い出すことが出来た。
一方で、俺のことを大事に思ってくれている人のことは…すっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。
今思えば、何であのときルクシーのことを一度も思い出さなかったのか理解に苦しむ。
誰よりも俺のことを分かっていたのは、ルクシーだったはずなのに。
何で俺は、ルクシーのことを忘れてしまっていたのだろう。
その日、いつものように医者が病室に入ってきた。
俺を担当してくれているこの先生は、エインリー先生と言うのだが。
当時、俺はその名前を知らなかった。
先生が名乗らなかったのではない。俺が覚えていなかっただけだ。
先生の名前どころか、俺はその日が何月何日で、そして今が何時なのかさえ知らなかった。
知る気もなかった。
俺に時間の感覚がないのを知ってか知らずか、当時エインリー先生はいつも俺に会うときは「おはよう」と言っていた。
その日も、朝か昼か夜か覚えてないけど、エインリー先生は「おはよう」と言って、俺の部屋に入ってきた。
しかし。
「…」
相変わらず、俺は何も答えなかった。
ただ黙り込んで、それどころか視線さえ合わせようとしなかった。
何とも無愛想な患者だが、俺にはあのとき、顔を上げて挨拶を返す余裕なんて、全くなかったのだ。
エインリー先生は、黙っている俺を見ても顔色を変えず、いつものように一方的に捲し立てた。
「さっきね、ルクシー君が来てくれてたんだよ。ルクシー君。覚えてる?君の仲良しのお友達」
「…」
「彼ねぇ、よく来てくれるんだよ。ほとんど毎日来てくれる。君のこと心配してるんだよ」
「…」
エインリー先生の声は、耳に届いていた。
でもその言葉は、俺の頭の中に入ってきていなかった。
左耳から入って、右耳から抜けていった。
正直なところ、当時俺の頭の中には、ルクシーはいなかった。
俺の中にいたのは、両親や姉や、エミスキーやラトベル等のクラスメイトや、教官達や、ルームメイトの先輩達だけ。
俺を憎み、傷つけ、見捨てた人のことは、よく覚えていた。
幻覚でも見ているかのように、くっきりと思い出すことが出来た。
一方で、俺のことを大事に思ってくれている人のことは…すっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。
今思えば、何であのときルクシーのことを一度も思い出さなかったのか理解に苦しむ。
誰よりも俺のことを分かっていたのは、ルクシーだったはずなのに。
何で俺は、ルクシーのことを忘れてしまっていたのだろう。