Music of Frontier
その晩。

俺達がいつも利用している居酒屋にて。

「う~。ずびっ」

「ほら、大丈夫かルトリア…。鼻をかめ」

情けなくべしょべしょと泣く俺に、ルクシーがちり紙をくれた。

「本当に重症だな~。ルトリーヌ。ベアトリーヌは泣かなくて良いのか?」

「何で?」

ベーシュさんは、きょとんした様子で焼き鳥を齧っていた。

強い。

「ルクシーから、『ルトリアを慰めたいから集まってくれ』と言われたときは何事かと思ったが…。まさか生徒達との別れが寂しくて泣いてるとは…」

ミヤノは、グラスを傾けながら苦笑いをした。

「済まんな、ミヤノ…。俺も驚いたんだぞ。ルトリアが、半泣きでうちを訪ねてきて…。何事かと思ったよ」

…う。

だってしょうがないじゃん。ルクシーなら慰めてくれると思って、無意識にエルフリィ家に向かってしまったのだ。

実際、ルクシーは慰めてくれた。

それでも俺がめそめそするものだから、ルクシーが皆を召集して、俺の気を紛らせる為に、こうして居酒屋に連れてきてくれた。

…の、だが。

「…う~…。寂しい…」

「困った奴だな、本当に…」

もう…もしかしたら、一生この教壇に立つことはないかもしれない。

この校舎を潜ることはないかもしれない。

そう思うと、何だか途端に悲しくなって。

俺、自分で思ってるよりずっと…講師としての仕事、気に入ってたんだなぁ。

卒業して、初めて気がついた。

「ベーシュはちっとも泣いてないってのに…。何でお前はそうなるんだ」

「だってぇ~…。…ベーシュさんは、悲しくないんですか?」

俺よりずっと、講師歴長いよね?

すると、ベーシュさんは。

「悲しくないよ。生徒達は皆、それぞれ行きたいところに巣立っていったんだから。私も、私の行きたいところに巣立った。向かう道は違っても、私と生徒達が一緒に過ごした時間は消えないもの。その思い出があるだけで、私は充分だよ」

「…!」

…格好良い。

ベーシュさん、あなたは教師の鑑です。

俺はとてもそうは思えません。

「ほら、ルトリア。こんなときこそ飲め飲め。烏龍茶じゃ酔えないぞ」

「だって~…。俺、飲めないので…」

「…」

こんなとき、お酒が飲めたら便利なんだろうけどなぁ。

でも、皆が慰めてくれたから…ちょっと、元気が出た。
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